第4回:ヘンデル/メサイア HWV.56

 クリスマスも近いことなのでヘンデルの<メサイア>を。
 僕は学生時分にオーケストラのサークルに入ってオーボエを吹いていました。まあ、大学に入ってから始めた楽器だったので大して腕は上がりませんでしたけれど。で、そのオケは毎年クリスマスの頃になると<メサイア>の全曲をやる演奏会が恒例になっていました。合唱は学内の合唱サークルと系列大学の有志合唱団とで、指揮と声楽ソリスト、チェンバロ、オルガンはプロの奏者を招く、というかたちでした。
 <メサイア>は、名前と「ハレルヤ・コーラス」ぐらいしか知らない状態で僕はサークルに入った訳ですが、知れば知るほど、演奏すればするほど素晴らしい作品であることが理解出来るようになりました。ただ、曲が長い(演奏時間にして2時間30分前後)のと、管楽器チームは出来るだけメンバーが多く舞台に上がれるように、ということで、前半と後半とでメンバー・チェンジをしていました(アマチュア・オケらしい話です)。そのため、大学時代にあった4回の演奏会で全曲を通して舞台に上がったことは1度もありません。4回生の時の最後の演奏会なんかは、引退扱いだったので(後輩の演奏機会を奪ってはいけないのです)舞台に上がらずホールで表方のスタッフをしていましたね。ちょうど卒論提出日で、徹夜明けでヘロヘロになっていましたが。
 さて、僕たちが使っていた楽譜はヘンデルのオリジナルではなくて、19世紀の音楽学者でプラウトという人物が管楽器パートを近代以降のスタイルで書き加えたヴァージョン(プラウト版)でした。オケ側の人数回しの関係や合唱の人数が多いというだけでなく、何よりも祝祭的な行事でもありましたし、少々派手めな感じになっても許されるだろう、という判断もあっての楽譜選択だったかも知れません。
 しかし、練習にあたっては参考のCDとかも探してみるのですが、実は当時(1990年代初頭)の時点でプラウト版を使って録音したプロの演奏はほぼ見当たりませんでした。大概は当時もう主流になりかかっていたピリオド楽器系(古楽系)か、往年の演奏家がヘンデルのオリジナル編成で演奏したものか、ぐらいだったはずです。そもそもCDにすると、上述のとおり曲が長いので2枚組か3枚組になるので、貧乏学生に取っては大きな出費になってしまいます。なので、そんなに何種類も購入することは出来ません。
 という状況で僕が最初に手にしたCDは、レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルの抜粋盤(Sony)でした。聴いてみると、何だか合唱の響きがコワいのです。もちろんマジメにやってはいるのでしょうが。最後の「アーメン・コーラス」なんかはテンポ設定も含めて何だかケンカ腰に聴こえて、変な感じでした。一応、一部にプラウト版も使っていたようだったので、後に興味本位で全曲盤(曲のカットや順番の入れ替えもあり「バーンスタイン版」と言っても良いでしょう)を探して買いましたが、今となってはあんまり一般的とは言えないディスクです。
 その次に買ったのがオットー・クレンペラー/フィルハーモニア管(EMI/ワーナー)の全曲盤でした。今は2枚に収まっているはずですが、当時出ていた輸入盤は3枚組でした。因みに、白状しておきますが、クレンペラーは僕が最も尊敬している指揮者なので愛聴盤も多く、そのためこれからここでもちょいちょい名前は出て来るはずです。
 で、クレンペラーの<メサイア>ですが、これは今でも素晴らしいと思っています。編成はオリジナルのとおり(オーボエ、ファゴット、トランペット、ティンパニと弦楽と通奏低音)ですが、合唱はやや多めな感じ。クレンペラーは「(テンポが遅くて)重い」という印象が一般的なようで、確かにここでも軽やかさとは真逆の演奏かも知れません。しかし、響きだけでなく、合唱パートと器楽パートのそれぞれが織り成す音の動きの明晰さ、そして曲が持つドラマ性、そういったものをトータルした時の音楽の密度の濃さは格別だと思います。
 学生の時に入手した<メサイア>のディスクで、もうひとつ触れておかなければならないのは当時中古LPで入手したトーマス・ビーチャム/ロイヤル・フィル(RCA/BMG)ですかね。これは、「もしヘンデルが20世紀に生きていたら、きっと大編成のオーケストラを使ったに違いない」という仮定で作られた「グーセンス版」というヴァージョンで録音されたものです。なので、オケは打楽器なども含む3管の大編成らしいですし、付け足された音符もたくさん。その上テンポ設定はまさに往年の巨匠風。シンバルが炸裂しブラスがバリバリ吹く「ハレルヤ・コーラス」なんか凄まじいですよ。何だか「総天然色のフルカラー映画」のような一時代前のゴージャスな感じで。まあ、お祭りも極めればこうなる、ということで、僕自身も面白がって聴くことはありますので全否定はしませんが。因みにこの録音も目出度くCDになっています。
 一方で、ヘンデルが意図した響きや当時のテンポ設定などを研究し、その成果を踏まえてそこに立ち返ることにベースを置くのがピリオド楽器系(古楽系)の演奏家たち、ということになるのでしょう。僕自身はどうしても学生の時の自分たちの演奏スタイルも記憶に残っていたので、このスタイルのディスクに触れるようになったのはだいぶ後のことでした。
 楽器編成の小ささや合唱の人数の少なさを考えると、一見迫力の点で物足りなさを思ってしまうかもしれませんが、実際には大概の名の通ったピリオド系の演奏家であれば、その点は大丈夫のはずです。速めのテンポ設定やくっきりした発音によるアクセント付け、更に各パートの絡み具合や動きがより分かりやすくなることで見えて来るドラマ。こうなってきて改めて<メサイア>を聴くと、全ての曲(僕の持っている楽譜では53曲)がドラマと美しさを備えていることに改めて気付かされるのです。当たり前ですけれど「捨て曲」なんて1曲もありません。だから2時間30分なんてあっという間ですよ。それでもキツい感じであれば、コーラスの曲だけからでも聴いてみてください。
 ピリオド系のCDも今はたくさんありますが、例えばポール・マクリーシュ/ガブリエリ・コンソート(Archiv/ユニヴァーサル)とかジョン・エリオット・ガーディナー/イギリス・バロック管(Philips→Decca/ユニヴァーサル)あたりはいかがでしょうか。後者の声楽パートの上手さは未だに別格かも。(ジャケットはマクリーシュの輸入盤)f0306605_232138.jpg
 最後に。
 僕が<メサイア>という作品を素晴らしいと思えるようになったのは、大学の2回生の時のことで、それは今年(2013年)お亡くなりになった小松一彦さんを指揮にお招きした演奏会に参加した際のことでした。ピリオド系のテンポや表現を入れつつ、プラウト版が持つ響きの多彩さも活かした独特なドラマを表現しようとした小松さんは、それを「ネオ・バロック」と言われていたことは今でも覚えています。
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by ohayashi71 | 2013-12-16 02:43 | 本編 | Comments(0)


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