第7回:モーツァルト/交響曲第38番二長調K.504

 満は持していませんが、ようやくヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~91)のことを。
 僕が最初に買ったモーツァルトのレコードは、ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団の交響曲第39番変ホ長調K.543と第40番ト短調K.550のLPでした。因みに中古で。これは中学から高校時分によく聴いたものです。特にト短調の方。
 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」だったり、「トルコ行進曲」を含むピアノ・ソナタ第11番とかも親しみやすい音楽であることは承知していましたが、それよりも彼の短調作品が持つドラマの方に音楽少年としては大いに惹かれたのでした。そのドラマ性にロマンティックな味わいも加味したのがワルターの演奏だったように思います。ト短調交響曲の第1楽章の再現部の途中で、楽譜に無い一瞬のパウゼ(休止)を挟むことで高まる悲愴感には今でもドキドキしてしまいます。
 ただ中学時代の後半に、僕はブルックナーにガッツリとハマッてしまい、まあそれはそれで良かったのですが、そのおかげで、いわゆる「クラシックの王道中の王道」的な作曲家やレパートリーを積極的に聴いていく感じにはならなくなりました。普通のクラシック好きなら知っていて当たり前、という曲はあんまり知らないのに「誰が聴くねん!」という曲は何故か知っている、そんな不順で不純な音楽青年に僕は育ちました。大学生時代にはモーツァルトの作品を実際にいくつか演奏もしましたが、まだ素晴らしさを十分に分かってはいなかったと思います。
 そんな僕とモーツァルトとの距離感(と書くと大げさでしょうが)を大きく変えたのは、社会人になって最初の職場での市民オペラの制作体験をした時でした。そこで僕はモーツァルトの<魔笛>と<フィガロの結婚>の上演に担当の一人として関わりました。上演は日本語でしたし、オケは使えないのでエレクトーンで代用という変則的なものでしたが、一方で半年以上の稽古期間もずっと立ち会ったおかげで、台詞や物語と音楽との非常に濃い関わり具合の面白さをしっかりと味わうことが出来ました。それ以降、僕は「モーツァルトはオペラ!」と信じるようになりました。
 一癖もふた癖もある多くの人物が登場して、錯綜し、おのおの喜怒哀楽をぶつけ合いながら話が進み、最後に最高のハッピーエンドを迎える喜劇<フィガロ>は、今で言えば三谷幸喜ばりの面白さに満ちた作品だと思います。また、音楽と話の筋自体はねじれがある<魔笛>にしても、第2幕終わり近くのパパゲーノとパパゲーナの再会の場面は、微笑ましいけれどその軽やかさの中に見える愛の勝利がとても感動的ですらあります。実は僕は当時上演の際、その場面になると舞台の袖で涙ぐんでいました。まだ本当のフィナーレ、大団円ではないはずなのに、です。もうそこでお話が終わってしまって良いんじゃないか、と本気で思ってもいましたね。
 で、そういった経験をしてみると、モーツァルトのいろいろな音楽、特に器楽作品の見え方も変わってきます。
 ということでようやく交響曲第38番二長調K.504です。初演の場所に因んで「プラハ」とも呼ばれています。急―緩―急の3つの楽章から成っていますが、楽譜に指示されている繰り返しをどの程度やるかによって演奏時間もだいぶ違ってきます。ワルターやカール・ベームをはじめ、往年の指揮者は大体繰り返しを全部はやっていないので25分から30分ぐらいなのですが、近年のピリオド楽器系の演奏になると35分から40分近くかかります。
 繰り返しというのは、単に形式的なものもありますし、省略しても大して印象の変わらない作品だってあるのでしょうが、「プラハ」の場合だとこれは是非やってほしいなあと僕は思っています。まあ、やらなくても優れた作品であることには変わりありませんが、やった場合だとベートーヴェンの、例えば「英雄」交響曲のようなスケールの大きな作品であるように思えてくるはずです。
 重々しささえ覚える第1楽章の長い序奏に続いて、アレグロで晴れやかな主部が始まります。音楽の流れは滑らかですが、楽譜を見ると非常に凝った造りになっています。ソナタ形式で言うところの提示部のことですが、それは後に続く展開部で示されるドラマへの伏線だらけなのです。このドラマの高揚感は、正直なところ、モーツァルトが「プラハ」の翌年に書いた最後の3つの交響曲(第39番~第41番「ジュピター」)よりも僕は強いものを感じています。オペラのように歌詞や物語があるドラマとは違いますが、器楽だけで作り上げることの出来るドラマの可能性を、彼は一気に拡げたようにも思えます。
 続く2つの楽章でもそれぞれに素晴らしい音楽ですが、プレストの第3楽章で畳み掛けるようにコーダに突き進んで行ったかと思った瞬間に、反復記号によって展開部以降の繰り返しが始まるところなんかは、僕は聴く度に、つい軽く興奮してしまいます。
 さてディスクですが、僕の愛聴盤と言えばまずはトレヴァー・ピノック/イングリッシュ・コンサート(Archiv/ユニヴァーサル)です。僕は彼の指揮による「プラハ」の実演を観たことがありますが、それはそれはとても素晴らしかったです。今であれば、多分モーツァルトの交響曲全集のボックスというかたちでしか入手できないかも知れませんが、初期から中期のモーツァルトの交響曲も聴く分には良いセットだと思います。
 ピノックは第1楽章の展開部以降の繰り返しはしていませんが、それもやっている演奏としてはチャールズ・マッケラス/スコットランド室内管弦楽団(Linn)を挙げます。こちらは「プラハ」から「ジュピター」までの4曲収録の2枚組です。演奏がしっかりしているおかげで、繰り返しによる冗長さなど全く無いと思います。
 往年の名演系であれば、やっぱりカール・ベーム/ベルリン・フィル(DG/ユニヴァーサル)でしょうか。
f0306605_23411474.jpg(ピノック盤(左)とマッケラス盤)f0306605_23413858.jpg
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by ohayashi71 | 2014-01-14 23:46 | 本編


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