第9回:ショスタコーヴィチ/24の前奏曲とフーガ Op.87

 僕がショスタコーヴィチを最初に知ったのはFMで耳にしたエフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの交響曲第5番ニ短調Op.47だったと思います。それはエアチェックして、つまりラジカセで録音して、何度も繰り返し聴いたものでした。1980年代の後半にさしかかろうという時期でしたから、ソ連という国が無くなる少し前のことです。
 レコードの帯には「革命」なんていう仰々しい呼び名が付けられていた第5交響曲は、今でもショスタコーヴィチの作品でいちばん有名なのかもしれません。でも僕はエアチェックのカセットテープを持っていたから、レコードとして最初に買ったのは第5交響曲ではなくて何故か交響曲第15番イ長調Op.141でした。これの話はまたいずれしたいと思いますが、今日はその辺で。
 で、それから数年後、大学生になった僕は夏休みにたまたま出かけた小倉のレコード市の棚で興味深いものを見つけました。ものはショスタコーヴィチの<24の前奏曲とフーガOp.87>というピアノ曲集のレコードで、確か3枚組じゃなかったかと思います。中高生の時に愛読書の一つが<クラシック・レコード総目録>だった僕ですが(笑)、やっぱり情報量がそれでも少なかったのですね、そういう作品があることは知りませんでした。中古とは言え極端には安くはなかったと思いますが、結局、僕はそれを買って大分に帰りました。
 大学(僕は関西の某大に行ったのですが)に上がってからは、サークルのオケ仲間たちとショスタコーヴィチの交響曲をレコードや実演で聴いては盛り上がることがしばしばでした。僕たちの学年はブラス出身者が多かったせいでしょうが、やはりオーケストラが壮絶に絶叫するような音楽にある種のカッコよさを覚えていたからだと思います。だから仲間内でショスタコーヴィチというと専ら交響曲の話ばかりでした。
 ただ、僕は高2か高3の夏休みにやはりエアチェックしたショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲15曲(演奏はボロディン弦楽四重奏団)を聴いていたので、彼のイメージは一部の有名な交響曲からだけで括れるものではなさそうであることは、何となく感じてはいました。
 その何となくを、僕の中ではっきりとさせたのが<24の前奏曲とフーガ>でした。それはショスタコーヴィチが1950年から翌年にかけて手がけたもので、バッハの<平均律クラヴィーア曲集>に改めて感銘を受けて書かれた作品だそうです。前奏曲とフーガのそれぞれが独白であり、内省であり、孤独な詩であり、美しさや軽やかさ、強さなどさまざまな表現がなされています。別人とまでは言いませんが、交響曲で見せる彼の姿とはだいぶ違うと言っても良いでしょう。
 24曲全てが素晴らしいと思いますが、いくつか挙げるとすれば、僕はまず第4番ホ短調ですね。重く静かな前奏曲に続いて、つぶやきのように最初のフーガ主題がアダージョで現れます。フーガなのでその主題が5度上とか8度下とかで次第に積み重ねられて行くのですが、途中から一旦別のフーガ主題が出てきてそれがしばらくフーガを続けます。その別の主題の音楽的な内圧が高まっていったところで最初の主題が再び現れ、そこから二重フーガという形を採ります。声部が重なり合うことで荘重さと運動性のバランスが高い次元で保たれたまま曲は終わります。演奏時間にすると前奏曲と合わせて8分程度ですが、体感的な時間はもっと長いかもしれません。
 最後の第24番ニ短調も第4番に似た作りですが、実際の規模は更に大きく、まさに締め括りにふさわしいものです。重さ、という意味ではこの2曲よりも重いものや、それを超えて深淵を垣間見る感じで怖いようなものもありますし、逆に第2番イ短調のように軽さときびきびとした動きが楽しいものもあります。第12番嬰ト短調はアレグロで5拍子のフーガですし、第15番変ニ長調なんかはフーガ主題に3拍子、4拍子、5拍子が混在していて諧謔性が強かったりもします。
 なので一気に24曲聴く必要も無いですし、番号順に聴く必要も無いと思います。それだけの広がりのある曲集ですから。
 で、僕が愛聴しているのは、その初めて買ったレコードの弾き手でもあったタチアナ・ニコラーエワのものです。もともとショスタコーヴィチは彼女のバッハ演奏に感銘を受けてこの曲集を手がけたそうです。更に初演も彼女に頼んでいますし、彼女も終生この曲集を愛奏しました。彼女の最後の演奏会もこの曲集だったそうです。ニコラーエワは少なくとも3回全曲録音しているはずですが、僕が聴いているのはいちばん最初のもので1962年の録音です(Venezia)。後の1987年(Regis)、1990年(Hyperion)も名演と言われています。
 他の演奏を挙げておくとすれば、コンスタンティン・シチェルバコフ(Naxos)や、かなり上記のような作品の印象からは外れるかもしれませんがそれはそれでアリなキース・ジャレット(ECM/ユニヴァーサル)とか。あと、全曲ではありませんが、スヴャトスラフ・リヒテル(Supraphon/コロムビア)とショスタコーヴィチ自身の演奏(VeneziaとEMIの2種/どちらも入手困難か)も大事な録音です。
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ニコラーエワ盤(1962年録音)
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by ohayashi71 | 2014-02-01 03:22 | 本編 | Comments(0)


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