第13回:バッハ/ゴールドベルク変奏曲 BWV.988

 今回は定番中の定番(定盤)で。
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685~1750)の作品のCDで僕がいちばん最初に購入したのはグレン・グールド(1932~82)が1981年に録音した<ゴールドベルク変奏曲>(Sony)でした。まずFMで曲を知って、それでガイド本か何かで薦められていたもの、というこ流れでそのCDを手にしたのではなかったかと記憶しています。
 当時出ていたソニーの名曲名盤シリーズに含まれていたそのCDの値段は3,000円でした。当時は
品番を見ただけで値段も分かるぐらい簡単な番号付けだったので。このグールドのCDは30DC何とかでしたね。
 およそ50分ほど要したグールドの演奏は、まだクラシック音楽を聴き始めてそんなに時間も経っていない子供でも「なるほど、これが名演か」と思えるぐらい、個性的であって、凄いなと納得させられる演奏でした。冒頭のアリアの低音部に主題が現れてそれが次々と変奏されて…、と解説には書かれますが、実際のところ形式を追うような聴き方をしなくても、緩急(テンポだけでなく強弱の出し入れも含め)の付け方が実に鮮やかで、その上、高音部と低音部の音たちの連なりやぶつかり合いのさまが非常にスリリングに聴こえてくるのです。そうして30のさまざまな変奏を繰り広げた後に、最後にまた冒頭のアリアが帰ってきて全曲が閉じられるのですが、そのアリアの深い呼吸ぶりが美しい余韻となっているのです。
 ただ、僕の買ったCDはその50分間でトラックがたったひとつきりでした。それはさすがに今となっては困りものではありますが、恐らく最近出ているものはちゃんと変奏ごとにトラック番号が付されているはず。
 さて、グールドというピアニストが非常に興味深い人物だった、ということは僕も次第に知ることになりました。大学1回生の時に、クラス(一応、美学とか芸術学の専攻だったのですが)の全員がそれぞれ何かを発表することになりました。僕は当然音楽について。それでアントン・ヴェーべルン(1883~1945)あたりでも、と何故か思ったのですね。若気の至りです。でも、分かっていないなりでも、あの点描的で超絶的な音空間は凄いなと。で、発表するのにやっぱり皆さんに音も聴いて欲しかった。それでCDを自分で準備することにしました。その時に購入したのが、グールドが若い頃(1957年)に演奏旅行でモスクワを訪れた際に音楽院で行ったレクチャー・コンサートを録音したCD(Melodiya)でした。それはヴェーベルンの<変奏曲Op.27>やアルバン・ベルク(1885~1935)の<ピアノ・ソナタOp.1>といった20世紀の作品たち(それらは当時のソ連という国家では演奏自体が本当は禁止されていましたが)が前半に演奏され、後半にバッハという流れのものでした。
 クラスの発表ではヴェーベルンを使ったのですが、随分引かれました。ドンびきでした(笑)。まあ、それはそれとして、そのモスクワ・ライヴのバッハがまた素晴らしかったのです。<フーガの技法BWV.1080>と<ゴールドベルク変奏曲>の自由な抜粋を彼は弾いていますが、その軽やかで自在な演奏ぶりがとても素晴らしいのです。録音を聴いていても、明らかにバッハ後の方の聴衆の反応が良い。
 カナダでは有望な若手として知られていたグールドが国際的な評価を受けるようになったのも<ゴールドベルク変奏曲>の録音でした。それは1981年録音を新盤とした場合に旧盤と呼ばれるもので、1955年録音のもの(Sony)です。81年盤が楽譜上の繰り返しをやったりやらなかったりしているのに対し、55年盤は全部スルーしており、それが早めのテンポと相まって一気呵成に聴かせてくれます。より濃厚な81年盤も良いけれど、55年盤の軽やかさや勢いもまた圧倒的なのです。
 グールドのスタジオ録音は1955年と81年の2種、それから上述のモスクワ抜粋盤の他にライヴで全曲演奏したディスクがいくつかありますが、やはり「グールドのゴールドベルク」という別格の扱いにしても良いのだろうと僕は思います。
 もちろん、本来<ゴールドベルク変奏曲>に限らず、バッハであればチェンバロで弾いた方が、よりバッハ自身の意図した音楽に近いのかも知れません。ただバッハの音楽の持つ可能性を追求しようとした時に、ピアノで演奏することはアリでしょうし、その意味でグールドはひとつの極点に到達しているのではないかと。基本、彼は技巧家であり、ロマンティストであり、でも醒めた感覚も持ち合わせており、それらが相対する作曲家によってバランスを変えてくるのですが、バッハは非常に絶妙にハマっていると思います。
 あと、グールドのレコードをまだ聴いたことがない方のためにひとつお知らせを。グールドは結構な量の録音を遺していますが、彼は大概ピアノを弾きながら自分でも歌っており、それがかなり聴こえてきますので、最初は驚かされるかもです。まあ、キース・ジャレットの奇声ほどじゃないかも知れませんが。
f0306605_044382.jpgf0306605_0461630.jpgf0306605_046523.jpg
(左から1981年盤/モスクワ盤/1955年盤)
[PR]
by ohayashi71 | 2014-04-02 00:53 | 本編 | Comments(0)


いつもコンサートの解説をお願いしている若林さんに、毎月オススメのCDを伺います!


by ohayashi71

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

カテゴリ

全体
本編
はしやすめ
未分類

以前の記事

2017年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月

お気に入りブログ

最新のコメント

まあ、クラシック(的な音..
by ohayashi71 at 22:38
若林さんの「ガッツポーズ..
by がつん at 21:48
あー、あのboxですね。..
by ohayashi71 at 23:50
トータルブレインで紹介さ..
by はなやもも at 18:36

メモ帳

検索

画像一覧