第14回:ウォルトン/ヴィオラ協奏曲

 マイブーム、というのは確かみうらじゅんが作った言葉で、流行語大賞も取ったはずです。
 僕も結果的にいろいろなマイブームの積み重なりで、今のような音楽の趣味性を持つことになった訳ですが、そのブームのひとつにウォルトン・ブームというのがありました。19歳ぐらいから24歳ぐらいの間がピークだったと思います。
 ウィリアム・ウォルトン(1902~83)は20世紀のイギリスを代表する作曲家ですが、多分僕がクラシックを聴くようになった1980年代前半は、日本では未だそんなにレコードが出回るような扱いではなかったはずです。僕が彼の音楽を初めて認識したのは、ちょっとしたケガで1週間ばかり入院した中学3年の初夏でした。実際、大したケガではなかったので、まあ正直ヒマを持て余していたのですが、とりあえずラジオでクラシック番組を聴いていました。その中でたまたま耳にしたのが、ウォルトンのヴィオラ協奏曲でした。細かい所は全く覚えられませんでしたが、とにかく何だか僕の感覚にマッチした作品だということだけは記憶しました。それでレコードが入手できるかどうかを調べたのですが、どうやら当時廃盤になってしまっており、結局中学と高校時代には再びそれを聴くことは出来ませんでした。
 大学に入って関西に出ると、僕は京都や大阪辺りで輸入盤も扱う大きなCD店に頻繁に通うようになりました。今でもそうなのですが、CDの背が並ぶ棚を眺めるのが楽しくて、下手をするとその店のクラシック・コーナーの棚を全部見ることはしばしばで、しかも「これを買おう」と決めて行くことはほとんどなくて、「何か面白そうなものは無いかな~」と思いながら眺めるので、余計に時間がかかる。しかもお金は持っていないから、財布と相談した挙句、1時間ばかり店内をうろついた後、何も買わずに帰ることもよくありました。だからお店の人からすると本当に「イヤな客」だったろうと思います(笑)。
 脱線しました。
 で、ある時大阪心斎橋のお店に行くと、数年探し求めていたウォルトンのヴィオラ協奏曲のCDに行き当たりました。「おおっ!」と思いましたね。カップリングはやはりウォルトンのヴァイオリン協奏曲。しかもどちらの協奏曲も同じ奏者が楽器を持ち替えて演奏しているらしい。珍しく迷うことなくレジ行き決定です。
 ナイジェル・ケネディのヴィオラとヴァイオリンで、アンドレ・プレヴィン指揮のロイヤル・フィルの演奏したディスク(EMI)でした。
 帰って早速聴きましたが、中学時代の非常に薄い記憶が間違っていなかったことを確かめることが出来ました。つまり、とても素晴らしい作品だったということ。
 ヴィオラ協奏曲はウォルトンが27歳の年にあたる、1929年に発表した曲です。最初に献呈しようとしたヴィオラ奏者が演奏を拒否したためにしばらく初演が宙に浮いてしまったそうです。そんなウォルトンを救ったのがやはり20世紀を代表する作曲家で、ヴィオラ奏者としても活躍したパウル・ヒンデミット(1895~1963)でした。そしてヒンデミットを独奏に迎えた初演は大成功を収め、ウォルトンは彼にこの曲を献呈しました。
 1920年代というと、アメリカのジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)の<ラプソディ・イン・ブルー>(1924年)に代表されるように、ジャズやポピュラー音楽などの語法とクラシックとを結び付けることで、新しい表現を追求する作曲家も現れた時期に当たります。ウォルトンも形式感のある伝統的なスタイルを採りつつ、そこにスパイスの効いた響きやリズムといった新しい書法をロマンティックな雰囲気と並立させる独特な音楽を書いていきました。
 ヴィオラ協奏曲はそのそれぞれのバランスが最もドンピシャに決まった作品ではないでしょうか。僕が中学生の時にピンときたのは恐らく諧謔的(=スケルツォ的)で運動的な第2楽章だったのだろうと思います。ヴィオラという、一般的には「渋い」とされる楽器が、むしろその渋さをカッコよさに置き換えているのが、この第2楽章です。緩やかなテンポでセンチメンタルに始まって、次第に速まり熱を帯びていく様が素敵な第1楽章と、後半に大きなヤマを築き上げるまでの道のりが「渋カッコいい」第3楽章もまた素晴らしいと思います。以前にここで取り上げたエドワード・エルガーが貴族的な英国紳士だったとすれば、ウォルトンはちょっと皮肉屋の側面も持つウィットに富んだイギリス人という感じです。
 ヴィオラ協奏曲という物珍しさ(あとはベラ・バルトークの協奏曲ぐらい)だけでなく、そんなことを言わなくても名曲に挙げられるべきだと思います。
 ケネディ&プレヴィン盤以来、いくつもこの曲のCDを僕は聴きました。ウォルトン自身が指揮台に上がった録音も何種類かありますが(①リドル/②プリムローズ/③メニューイン)、それらはまあいわゆるコレクターアイテムでしょう。ヒンデミットの録音があったら是非聴いてみたいところですが、残念ながら無さそうです。その他に、世界的なヴィオラ奏者でウォルトンの生誕80歳記念の演奏会でウォルトン本人からも絶賛された経験もある今井信子の録音(ジャン・ラタム=ケーニヒ/ロンドン・フィル:Chandos)や、おなじみのユーリ・バシュメットの録音(プレヴィン/ロイヤル・フィル:RCA)等もありますが、まあ僕はケネディ&プレヴィン盤が今でもいちばんの愛聴盤です。付け加えておくと、プレヴィンはウォルトンのスペシャリストで、彼のウォルトン録音には名盤が多いのです。
 ついで話ですが、僕のウォルトン・ブームは社会人になってもしばらく続きました。その最初の職場の広報誌で僕がウォルトンのヴィオラ協奏曲を傑作扱いで紹介したら、ある時吉田秀和さんから「ウォルトンの協奏曲がいいっていう人も居るんだね」という感じのことを面前で言われたことがあります。その時は「あれ、お嫌いだったのかな」と思ったものですが、数年後の<名曲のたのしみ>でバシュメット&プレヴィン盤をご紹介されていたので、まあホッとしたものです。因みに、その放送回は文字起こしされて、去年小学館から出た<名曲のたのしみ、吉田秀和>の第3巻にも収録されています。
 最後に、おまけでウォルトンのヴァイオリン協奏曲について。これはかの名人、ヤッシャ・ハイフェッツに委嘱されてウォルトンが書いた作品ですが、こちらはハイフェッツの怜悧な弾きっぷりにピッタリな技巧的にも難曲な作品。ケネディ&プレヴィン盤も良いのですが、ハイフェッツ&ウォルトン/フィルハーモニア管の組み合わせによる録音(RCA)が抜群に素晴らしいと僕は思っています。
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(L→R:ケネディ&プレヴィン盤初出/ケネディ&プレヴィン盤収録の現行盤(ウォルトン作品集)/今井信子&ラタム=ケーニヒ盤)

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by ohayashi71 | 2014-04-09 02:12 | 本編 | Comments(0)


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