第21回:マーラー/交響曲第7番

 7月7日、という日はもちろん日本では七夕なのですが、僕にとっては「あぁ、マーラーの誕生日だよなあ」と思う日だったりします。別に僕はグスタフ・マーラー(1860~1911)の熱狂的なファンではありません。単に覚えやすい日だから、というぐらいのことです。とは言え、毎年7月7日にやると決めていることがあって、それはマーラーの交響曲第7番を聴く、ということ。多分、もうこの10年ばかりそれが習慣になっています。
 他にも、と言うより未完の交響曲第10番(デリック・クック補筆版をはじめとする完成版も)まで含め、また歌曲も含め、マーラーの作品の殆どはとても好きなのですが、交響曲第7番については一際強い愛着を持っています。
 いろいろな本や解説書を見ると、この交響曲第7番はマーラーの交響曲の中でいちばん人気が無いと書かれていたり、演奏機会が少ないと書かれていることが多いようです。最近は分かりませんが、僕がかつて接してきたものではそういう扱いが普通だったように思います。
 何故か。
 そういう評価をされてしまっていた大体の要因は、この交響曲の最終楽章である第5楽章にあったようです。それまでは、暗さを含む重々しさとぬるい甘さが奇妙に混じり合った第1楽章に、「夜曲(Nachtmusik)」と題されどこか寂寥感すら漂わせる第2楽章、「影のように」と記されたスケルツォである第3楽章、それにマンドリンやギターが登場し文字どおりのセレナード風な音楽が奏でられ再び「夜曲」とされている第4楽章という感じで繋がれていきます。そして、それらに続く第5楽章はティンパニの景気のいい連打で始められ、途中に優美なムードも挟みながらのドンチャン騒ぎのロンドとして描かれ、最後も華々しく明るく閉じられるのです。その第5楽章が余りにもそれまでの流れからすると浮いた感じになって全曲の締めとしてのバランスを崩している、というのがこの曲に対する批判的な考えのようです。
 確かに、第5楽章はその出だしからして、ストレートに言えば下品なぐらいのノリを見せます。その意味で、マーラーが交響曲第5番や第6番で示してきたような、全曲を通してのドラマの結論部分としてのフィナーレとは看做しがたいかも知れません。それまでの話が無かったことになるぐらいの破壊力があると言っても良いでしょう。
 しかし、僕はそういうある種の矛盾すら感じさせるようなドラマとしての音楽の流れをそのまま並べたこと自体がこの曲の価値ではないかとも考えています。別の言い方をするなら、例えばベートーヴェンの交響曲第5番のような明快な起承転結のドラマ、終わりのための始まりであり経過である、という考え方に異議を唱えるような曲があっても良いだろう、ということでもあります。相克や葛藤であったり、喜劇や悲劇といった分類に全てのドラマがいつも分けられる程世の中は単純ではないはずです。もともとマーラーの作品にはそういう要素が含まれていたと僕は思っていますが、全曲を通じての割り切れなさをそのまま描き切った、という意味ではこの交響曲第7番はマーラーの作品の中でも唯一無二の存在なのではないでしょうか。ちょっと違うのかも知れませんが、マーラーと同時代に生きた作家、フランツ・カフカ(1883~1925)の奇妙な作品群を連想してみるのもアリなのでは。
 さて、こう書いてくると交響曲第7番が大変な難曲であるように思われるかも知れません。でも、そうですねえ、やっぱり難曲なんでしょう。だから聴いて受け止める、スッキリしない気分があってもそれも受け止める、矛盾は矛盾のまま受け止める。それで良いんじゃないでしょうか。
 で、そういう僕の感覚にいちばんハマるのはオットー・クレンペラー指揮のニュー・フィルハーモニア管弦楽団による1968年の演奏(EMI/ワーナー)です。僕はこのディスクにはかれこれ20年ぐらいはお世話になっています。クレンペラー(1885~1973)はマーラーの直弟子の一人で、マーラー自身の指揮による交響曲第7番の初演にもリハーサルから立ち会っていた人物です。ならば、すごく正当的な演奏をしているのでは、と思ってはいけません。多くの指揮者が全5楽章を80分弱で演奏するのに対し、クレンペラーは約100分かかっています。遅い、と言えば遅いのでしょうが、そのテンポで、そしてクレンペラーの透徹したバランス感覚によるオーケストラの鳴らし方で見えてくる(聴こえてくる、と言うより)視界の広がり具合はあまりにも圧倒的です。第1楽章と第5楽章がよりヘヴィな音楽になるのは当然としても、僕は第2楽章で示される強烈な寂寥感の風景には強く惹かれます。言ってしまえば、マーラーの交響曲第7番のディスクについては、「クレンペラーとそれ以外」だと思っていただいて構いません。僕もこれまでにたくさんのレコードを聴いてきましたが、この演奏は僕にとって5本の指どころか3本の指に入れなければならないと思うぐらいの愛聴盤なのです。
 曲もディスクもマニアックと言えばマニアックな話でしたけれど。
f0306605_2241023.jpg(クレンペラーによるマーラーの交響曲選集)
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by ohayashi71 | 2014-07-01 00:01 | 本編 | Comments(0)


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