第28回:ボロディン/交響曲第2番ロ短調

 アレクサンドル・ボロディン(1833~87)の曲、と言った時、最初に挙げられるのは何でしょうね。
 未完に終わった歌劇<イーゴリ公>に含まれている<ダッタン人の踊り>や<ダッタン人の合唱>なのかも知れませんし、交響詩<中央アジアの草原にて>なのかも知れません。どちらにしても親しみやすいエキゾチックな雰囲気が非常に魅力的な音楽だと思います。
 と、ここまでがありふれた前フリ。
 ではまずボロディンの生きた時代のことから。
 学校の音楽の授業のレヴェルだとボロディンは「ロシア5人組」の一人として紹介されます。5人、と書いたら他の4人についても一応。指導的立場にあったミリー・バラキレフ(1837~1910)、<展覧会の絵>のモデスト・ムソルグスキー(1839~81)、<シェエラザード>のリムスキー=コルサコフ(1844~1908)、それとセザール・キュイ(1835~1918)の4人です。まあバラキレフやキュイの曲は日頃あんまり聴く機会は無いと思いますけれど。しかし実際には「5人組」と一括りにしてしまえる程、5人ともずっと同じ方角を向いて音楽を書いていた訳ではありません。確かに、西欧の亜流とは違うロシアの民族的要素に根ざした音楽の創作を目指してはいたのでしょうが、その距離感の違いが実際の作品を聴いていくとかなり現われていることは分かると思います。ムソルグスキーとリムスキー=コルサコフの作品についてはまた改めて触れるつもりですが、この2人の代表作を並べてみるだけでも随分違います。
 それから「5人組」とは一線を画す位置に居たのがピョートル・チャイコフスキー(1840~93)。彼はバラキレフとも交流はありましたが、当時のロシアではチャイコフスキーの音楽は「西欧風」と看做されることもあったようです。今ではちょっと想像しがたいことですけれど。とにかくこのように作曲家名を列挙していくと当時のロシア音楽界の勢いが分かると思います。
 さてボロディンについて。彼の生前の本業は音楽ではなくて化学の研究者の仕事でした。しかも彼は研究者としても一流だったそうで、その多忙さのせいで十分に音楽活動を行うための時間を作れませんでした。なので、ボロディンが遺した作品の数は決して多くはありませんし、<イーゴリ公>や交響曲第3番のように未完成のままになってしまった作品もあります。
 ボロディンの音楽は、メランコリックさよりも大らかさの方が表に立った豊かな叙情性に裏打ちされた美しい旋律と、中央アジア系の音楽にも通じるような生気溢れる勇壮さが、簡潔な構成の中にバランス良く盛り込まれているように思います。
 その意味で僕が彼の代表作として挙げたいのが交響曲第2番ロ短調です。1877年の初演では必ずしも好評ではなかったようですが、その後の演奏で成功を収めています。4つの楽章から成りますが、いちばんインパクトが強いのは第1楽章の第1主題でしょう。「H-H-C-E-Dis-H-D-H(シ-シ-ド-ミ-レ♯-シ-レ-シ)」というクセの強い音の並びが、「タ-タ-タ-タ-タ-タ-タッ-ター」というこれまた独特なリズムで奏されるのです。美しい第2主題も素晴らしいのですが、第1楽章全体でしつこいぐらいに繰り返される第1主題の印象の強さと言ったら! 後にこの第1主題はフランスのモーリス・ラヴェル(1875~1937)たちのお気に入りになって、彼らの芸術グループのテーマソングにもなったそうです(ドアのノックのリズムがこれだったとか)。
 情緒の連綿とした移り変わりであったり、心理ドラマとしての交響曲ではなくて、民族的な生のエネルギーを交響曲という「器」に収めてみたらこうなりました、という感じの音楽と言っても良いのかも知れません。この作りは、ロシアで言えば後のアラム・ハチャトゥリアン(1903~78)の交響曲(3曲あって、これがなかなか面白いのですよ!)に通じるようにも思います。
 さてCD。豪胆さと叙情性を、テンポ、リズムの扱い、響きといった要素の中でバランスよく描くというのは意外に難しそうです。僕の愛聴盤はアルメニア出身の指揮者、ロリス・チェクナヴォリアンが1977年にナショナル・フィルを振ったもの(RCA/BMGビクター)。勢いという意味で面白かったのはカルロス・クライバーとシュトゥトガルト放送響の1972年ライヴ(Hänssler)、重量感で言えばキリル・コンドラシンとアムステルダム・コンセルトヘボウ管の1980年ライヴ(Philips/ユニバーサル)というところでしょうか。
 ところでこの交響曲と並んでボロディンの代表作として知られている弦楽四重奏曲第2番ニ長調という作品がありますが、こちらは叙情と旋律美が魅力的なもの。今度(10月18日(土))冨士屋さんである<クァルテット・エクセルシオ>の演奏会で取り上げられるそうなので、機会のある方は是非。
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(左からチェクナヴォリアン盤、クライバー盤、コンドラシン盤)
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by ohayashi71 | 2014-10-01 01:10 | 本編 | Comments(0)


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