第32回:ショパン/スケルツォ第2番変ロ短調 作品31

 フレデリック・ショパン(1810~49)の曲でどれかひとつ、というのはとても難しいことです。僕が愛聴しているのは<舟歌>嬰ヘ長調 作品60や<幻想ポロネーズ(ポロネーズ第7番)>変イ長調 作品61といった彼の(早過ぎる)晩年に書かれた作品ですが、言うまでもなくその他にも名曲が多数。名演も多数。
 という前提でまた悩んで、かと言ってショパンをずっとここでやらないのもどうかと思うし。ということで、とにかくで今回挙げてみたのが<スケルツォ第2番>変ロ短調 作品31です。ショパンの作品中でも上から数えた方が早いであろう有名な曲を。
 暗いつぶやきと1小節の全休止。そしてオクターヴの上向きの跳躍を伴う決然としたフレーズ。この問答のような曲の始まりはとても印象的です。この変ロ短調の縦方向の動きに続いて、左手のアルペジオに乗って変ニ長調で旋律的な(=横方向の動き)フレーズが現れます。con anima(活気をもって)と指示されているこのフレーズが高まりff(フォルテッィシモ)に至る所までが最初の部分。これが大体同じように繰り返されると中間部に入ります。
 イ長調で叙情的に始まる中間部は、愁いを帯びた嬰ハ短調のフレーズで動き出し、ホ長調で軽やかに駆け回ります。この部分も同じように繰り返されます。そこから一気に音楽の表情は厳しいものに変わり、情熱の昂りが叩きつけるように激しく描かれていきます。
 それが収まって最初の部分が帰ってきます。コーダでは再び盛り上がりを見せて変ニ長調で終わります。
 少し曲のつくりにこだわってみましたが、演奏時間にして大体10分程度の独奏曲にしては感情的な起伏の移り変わりが大きいようにも思えます。「スケルツォ」は音楽的には、一般に「諧謔的な」とか「冗談のような」という感じの曲とされていますが、ショパンの場合はややこの定義からは外れている、と見做されることもあるようです。確かに「笑い」の要素は非常に薄いと思いますし、むしろ深刻さや悲愴感すら漂っているかもしれません。ただ、気分の移り変わりの激しさ、その幅の大きさといったもの自体が辛口の「諧謔」であり「冗談」であるのではないでしょうか。
 さて、そんな<スケルツォ第2番>のレコード。
 僕が最初に気に入ったのはマルタ・アルゲリッチの1974年録音盤(DG/ユニヴァーサル)でした。叙情的な表情をきちんと抑えつつ、でもそれ以上に圧倒的で奔放な表現がとても素晴らしいと思います。他にもこれまでにいろいろなピアニストの録音(実演も当然ありますが)は聴きましたが、僕の性にいちばんぴったり来るのはアルトゥーロ・ベネディッティ=ミケランジェリの1971年録音盤(DG/ユニヴァーサル)です。アルゲリッチが9分かからない程度で弾き切るのに対し、ベネディッティ=ミケランジェリは大体11分ぐらいかけています。その遅さは曲全体を平均的なテンポでずっと弾くのではなくて、フレーズの変わり目やその中で息を整え直すタイミングで少しテンポを揺らしており、そういうことも含めてその演奏時間を要した、ということです。また旋律に偏らない音量のバランス(アルゲリッチが偏り過ぎている訳ではありませんが)であったり、特に中間部の叙情的な部分での余りにも繊細に響かせる和音の美しさなど、聴きどころの沢山ある演奏だとも思っています。
 テンポの採り方や揺らし方、装飾音の扱いを含めた歌い回し、音の響かせ方など、ショパンの曲には単に音符を並べ切るだけでは済まない表現が絶対的に求められるように思いますが、そのさじ加減をひとつ間違えると曲自体が薄っぺらいものに聴こえてしまう危うさも隠されているとも思います。とは言え、そうした要素の組合せ方はさまざまですし、僕たち聴き手が求めるものや受け止められるものもさまざまです。<スケルツォ第2番>だと、若林の場合はベネディッティ=ミケランジェリがしっくりきているようだ、という程度に捉えていただければそれで良いと思います。

 余談。
 その昔、ショパンについて僕が大分の財団機関誌<emo>に書いた記事がまだネット上で生きているので、ご興味のある方はどうぞ。因みに何故かスケルツォについての記述が落ちていますので悪しからず。
http://www.emo.or.jp/emo/organ/backnumber/formerback/emo/backnumber/25/tokushu/index.html
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by ohayashi71 | 2014-12-19 23:40 | 本編 | Comments(0)


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