第36回:ヒンデミット/ヴィオラ・ソナタ 作品11-4

 僕は学生時代の4年間はオーボエを吹いていましたが、今からもし新たに楽器を習うことが出来るのであればヴィオラにはとても興味があります。楽器を弾きこなすこと自体の難しさもさることながら、ト音記号やヘ音記号ではないアルト記号に慣れるのにも時間がかかりそうですけれど。

 ヴィオラが主役の名曲、と言うと僕の場合はまずこのシリーズでもご紹介したウォルトンの協奏曲を挙げたいですし、バルトークの協奏曲もしかり。アンサンブル作品で言えばブラームスの、クラリネットからの置き換え版となる2曲のソナタや三重奏曲、五重奏曲、あるいはショスタコーヴィチのソナタ等も素晴らしいと思います。

 そして忘れてはならないのはパウル・ヒンデミット(18951963)のヴィオラ・ソナタ作品11-4です。ヒンデミットは作曲家としては交響曲<画家マチス>や<ウェーバーの主題による交響的変容>といった管弦楽作品が知られていますが、演奏家としてはヴィオラの名手として活躍しました。僕にとって重要なのは、ウォルトンの協奏曲を初演したのがヒンデミットだったということです。実はウォルトンは初演者と目していたヴィオラ奏者に彼の協奏曲の演奏を拒否されており、その窮地を救ったのがヒンデミットでした。ヒンデミットとウォルトンの交友はこの後もずっと続き、ウォルトンは後に<ヒンデミットの主題による変奏曲>という管弦楽作品を書いています(ジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団(Sony)の名演のディスクがあります)。

 さて話を戻してヒンデミットのソナタ。ヒンデミットのヴィオラ作品は協奏的作品やピアノとのソナタ、無伴奏のソナタなどがありますが、1919年に書かれた作品11-4のソナタが僕は特にお気に入りです。僕が初めてこのソナタを知ったのはタベア・ツィンマーマンのリサイタルの時。20年前のことです。その際にブラームスの2曲のソナタと共に演奏されたのがヒンデミットの作品11-4でした。

 それまでの僕のヒンデミットのイメージは上述した管弦楽作品から来ていて、それは良くも悪くも感情表現的というよりも音による運動表現や構成、あるいは音楽としての機能美を体現したもの、というイメージでした。彼の作品についてよく使われる言葉としては「新即物主義」とか「実用音楽」というものがあり、そういった言い方はヒンデミットの時代が例えばバウハウスのようなモダニズム文化が花開いた時代でもあったということを思い出させます。

 ところが、作品11-4のヴィオラ・ソナタはそういう僕のイメージとはだいぶ違う音楽でした。もちろん前述のとおり、ヒンデミットはモダニストとしてのイメージが一般的だと思いますが、このソナタについてはまだ19世紀的な、と言うか後期ロマン派的な表情も見受けられます。その意味での情感の豊かさは、例えば「幻想曲」と題されたこのソナタの第1楽章からも窺えます。8分の6拍子で穏やかに歌われる冒頭のフレーズがその後流れの中で5回現れるだけのことなのですが、ピアノの細やかな動きと相まって独特な渋色の空間が拡がります。

 第1楽章の「幻想曲」に休みなく続けられる第2楽章は「穏やかに、民謡のように飾らずに」と示された変奏曲です。緩急さまざまな変奏が4つ続いて音楽が高潮しきったところでまた休みなくそのまま第3楽章に入ります。最初の主題(A)は、キメる、というか歌舞伎で言うところの見得を切るような「タタター」というフレーズが印象的ですが、続く2つめの主題(B)はそのリズムを取り込みながら全く対照的な柔らかく叙情的な表情で出てきます。こうして(A)と(B2つの主題が出てきますが、それらは展開せず、第2楽章の変奏の続きがそこから再び現われます。変奏を2つ挟んでまた(A)と(B)が戻った後、通算7つめの変奏が終結部として奏され、力強く全曲を閉じます。

 構成をこう文章で書いていくと複雑そうかも知れませんが、各楽章のフレーズが関連していることと、構成中の緩急の付け方の巧みさが結果として全曲の流れを自然なものにしており、非常に聴きやすい作品になっているのではないかと僕は思っています。

 この構成に対するアプローチと、ヴィオラの音色、そしてピアノとのコンビネーションといった点から僕がいちばん好んで聴いているのは、現在ベルリン・フィルのソロ・ヴィオラ奏者を務めている清水直子とオズガー・アイディンによる2000年録音の演奏(Genuinです。

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by ohayashi71 | 2015-05-12 13:38 | 本編 | Comments(1)
Commented at 2015-05-23 16:16 x
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