第47回:エネスク/ルーマニア狂詩曲第1番イ長調 作品11-1

 東欧出身の作曲家による音楽の面白さ(ユニークさ、と言っても良いものですが)を僕が最初に意識したのはハンガリーのベラ・バルトーク(1881~1945)の作品でした。彼のいろいろな作品に触れていくと、ハンガリーだけでなくブルガリアやルーマニアといった他の地域の音楽からの影響も含まれていることを知るようになります。僕の場合は、そこから「ブルガリアン・ヴォイス」だったり、もっと生の民俗音楽のCDに手を出していくようになりました。この辺は、前回のストラヴィンスキーの<結婚>の話にも繋がっています。
 で、東欧の民俗音楽の中でも結構お気に入りにしているのが<ファンファーレ・チョカリーア>というグループのCDです。このグループはルーマニアのロマ(ジプシー)のブラスバンドなのですが、ジャンル的には「ジプシー・ブラス」と言った方が分かりやすいかも知れませんね。僕は彼らのファースト・アルバムにあたる<ラジオ・パシュカニ>(1998年)を聴いて、その高速吹奏や強烈に泥臭い演奏ぶりをとても面白く思いました。
 因みに東欧のロマの音楽のグループは他にも<ラカトシュ・ファミリー>とか<タラフ・ドゥ・ハイドゥークス>といった辺りが日本でもよく知られていると思いますが、僕個人の好みはどうやらブラスな分だけ<ファンファーレ・チョカリーア>の方にあるようです。
 さて、ここまでが前置き。
 今回のお題はルーマニアの作曲家、ジョルジェ・エネスク(1881~1955)の<ルーマニア狂詩曲第1番イ長調 作品11-1>です。
エネスクは20世紀前半を代表するヴァイオリニストでもありました。その演奏はそれなりの数が遺されており、例えばバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティ―タ集は録音の古さ(1940年代)はあるとは言え、今でも聴かれるべき名演だと思います。作曲家としてのエネスクはこの<ルーマニア狂詩曲第1番>が最も有名な曲扱いされているように思いますが、意外に僕は結構最近まで聴いてこなかった。避けていた訳ではありませんが、たまたま触れる機会が無かっただけ、ということです。なのに、僕は歌劇<エディプス王>の方を先に聴いてしまい、これは凄い作品だなあと思った後で<ルーマニア狂詩曲>を知ることになりました。この「聴く順序」が違ったせいでもあるのですが、まあ正直なところ「作曲家・エネスク」にとって<ルーマニア狂詩曲第1番>はベストの作品とは言えないでしょう。
しかし、<ルーマニア狂詩曲第1番>はエネスクがまだ20歳前後(1901年)に書かれた若書きの作品であること、また同じ時期に同世代のバルトークがまだ民族要素の強い音楽にまで至っていなかったこと等を考えると、やはり軽く見られるべきでは無いとも思います。ついでにもう少し周囲を見回すと、チェコのアントニン・ドヴォルジャーク(1841~1904)は晩年にさしかかろうとしていましたし、レオシュ・ヤナーチェク(1854~1928)はまだ作曲では表舞台には立っていませんでした。
エネスクに話を戻します。曲自体はかつてフランツ・リスト(1811~86)がシリーズとして書いた<ハンガリー狂詩曲>のように、民俗音楽の要素(メロディーやリズム)をストレートに出して、かつ緩やかなテンポから次第に熱を帯びていき最後は華々しく終わる、という分かりやすい作りで書かれています。
僕が<ルーマニア狂詩曲第1番>を気に入ったのは、ほんの数小節(4小節か6小節)のフレーズが引っかかってきたから。それは曲が盛り上がってきて、そこまでイ長調で来ていた流れが急にイ短調に移り、全体として更に勢いを増した所で登場するトランペット2本のフレーズです。曲中では全部で3回しか出てきませんけれど。1stのトランペットの音を書き記すと「レ♯―ミ―シ―ド/レ♯―ミ―ファ♯―ソ/レ♯―ミ―シ―ド/レ♯―ミ―ファ♯―ソ」で、2ndはそれの3度下の音をなぞって進みます。この半音の動きの含み具合は普通の長調や短調とは明らかに違っていて、エキゾチックなものを感じさせてくれるように思います。
このフレーズを意識した時、僕は何故か<ファンファーレ・チョカリーア>のことをふと思いました。エネスクがジプシー・ブラスそのもののフレーズを使った訳でもありませんし、逆に<ファンファーレ・チョカリーア>の音楽にエネスクのフレーズが含まれている訳でもありません。でも何か相通じるものがある。それはこのトランペットの「響き方」であるように思います。
実は<ルーマニア狂詩曲第1番>には、このトランペット2本と別にコルネット2本も編成に含まれており、こちらはこちらでジプシー・ブラス風なフレーズを受け持つ部分も出てきます。もちろん僕はこっちのフレーズも好きですが、トランペットのものの方がより、という感じではあります。
とにかく、そんなピンポイントなことから始まった<ルーマニア狂詩曲第1番>の好きさ加減ではあるのですが、四の五の言わずにまあとりあえずは取っつきやすいし、ノリも良いし、ということでちょいちょいと楽しんでいます。
ディスクは、そのトランペットのフレーズがしっかり聴こえた方がより僕の好み。アンドレ・プレヴィン/ロンドン響(EMI:1971年録音)とか。そのフレーズにこだわらずに曲全体のテンポの動かし方だったり節回し、更に速い部分に移ってからのノリの良さということで言えばアンタル・ドラティ/ロンドン響(Mercury:1960年録音)ですかね。もちろん、それなりに人気の高い「お楽しみ曲」なので他にも数多くの録音があり、それぞれの味付けの仕方が興味深いところではあるのですが、その中で挙げておくとすればやはりエネスク自身の指揮とコロンヌ管による演奏(Naxos:1950年代)だと思います。

f0306605_137487.jpgf0306605_13868.jpgf0306605_1382393.jpg(プレヴィン盤、ドラティ盤と<ラジオ・パシュカニ>)
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by ohayashi71 | 2016-01-28 01:40 | 本編 | Comments(0)


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