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第5回:エルガー/交響曲第2番変ホ長調Op.63

 <威風堂々>という行進曲はみなさんよくご存知だと思います。
 少しだけ正確に言えば、<威風堂々>と題された行進曲は全部で5曲あるのですが、普段僕たちがよく耳にするのはその第1番です。僕は学生時代に第4番をオーケストラで演奏したことがあるのですが(あ、第1番もありますよ)、曲の作りはともかくとして(行進曲ですから)、その中間部の旋律も第1番の有名なアレと似た感じがしたので、当時はついつい「パクリやん」と思ったものでした。
 さて、今日はその<威風堂々>の作曲家、エドワード・エルガー(1857〜1934)のことを。
 エルガーと言うとまずは<威風堂々>(の第1番)だったり<愛のあいさつ>、ということになってしまうのかも知れませんが、それぐらいと思っているとあまりにも勿体ない。2曲の交響曲や管弦楽のための変奏曲<エニグマ>、チェロ協奏曲などは明らかに傑作ですし、他にもまだまだ名曲と呼べる作品はあります。
 で、そんなエルガーの作品から交響曲第2番です。
 いきなり変な言い方をしますが、交響曲なのですがやっぱり<威風堂々>なのですよ。<威風堂々>でも何となく醸し出されている雰囲気がそのまま大きくなって、という意味です。ではその雰囲気とは? それは何よりも気品や品位の高さでしょう。エルガーは楽譜にしばしば「上品に」とか「気高く」という意味を持つ「nobilmente」という指示を書き込んでいます。これはあんまり他の作曲家には見当たらないことです。
 話は逸れますが、少しイメージしやすいかも知れないことを書きます。その昔NHKでイギリスのTV局が制作したシャーロック・ホームズのドラマが放送されていました。ホームズを演じたジェレミー・ブレットがとにかく素晴らしかったのをはじめ(声の吹き替えをやった露口茂も)、映像を見るとホームズの、そして原作者であるコナン・ドイルの生きた時代や当時のイギリスの人々はあんな感じだったのだろうなあ、と納得させてくれるようなものだったと思います。高潔な紳士であり、知的であり、ちょっと感傷的でもあるホームズ(ついでに言えば、彼はヴァイオリンを演奏します)。さて、ここで大事なのはドイルとエルガーは全く同時代人だったということです。今、ホームズについて書いたような雰囲気が、僕はエルガーや彼の音楽にものすごく通じているように思えてならないのです。
 エルガーの音楽からは懐古や感傷の空気も流れていますが、それはピンと背筋の伸びたきれいな姿勢を保ったまま醸し出されているように思います。そこは同じく同時代人だったグスタフ・マーラー(1860〜1911)の悩みもがくような音楽とは大きく異なる点です。とは言え、今の僕たちはどちらにも共感したって構わないと思います。
 曲の話からかなり遠くに行ってしまいましたが、しかし、作品全体から受ける雰囲気はここまで述べてきたようなことである程度お察しいただけるような気がします。ひとつ加えるとすれば、交響曲第2番は全体的に輝きを放ってはいますが、それは夕映えのようなものだと言うことです。第1番でも同じ雰囲気はありますが、第2番はもっと黄昏に近い感じと言っても良いかも知れません。
 3管の大きな編成のオーケストラが細やかに扱われ、その巧みさは本当に素晴らしいのですが、そこにエルガーの音楽の難しさがあるように思えます。オケががんばらないと聴きとり辛い部分も多そうですし、一方でただ鳴らしさえすれば、音を出し切りさえすればいい、というものでもないようなのです。そこで重要になるのがエルガーが「nobilmente」と書いたものをどう表現するか、です。
 ということで、僕の愛聴盤はイギリスの大指揮者、エードリアン・ボールト(1889〜1983)が1975年にロンドン・フィルと録音したもの(EMI/ワーナー)。ボールトも僕の好きな指揮者の一人ですが、彼のエルガー録音は別格的存在ではないでしょうか。この交響曲第2番の録音にしても、当時85か86歳の指揮者とは思えないぐらいの張りが全体にあるのと同時に、オケの響きの整理、テンポや音楽の流れの緩急の付け方が本当にドンピシャだと思います。f0306605_0232979.jpg
 僕はボールトのエルガーを学生の頃からコツコツ集めて来ましたが(国内盤がほとんど出なかったので、輸入盤で)、最近はドドンと19枚組のボックスも出ているようです。まあ、まずは単発ものからの方が良いとは思いますが。
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by ohayashi71 | 2013-12-27 00:23 | 本編

第4回:ヘンデル/メサイア HWV.56

 クリスマスも近いことなのでヘンデルの<メサイア>を。
 僕は学生時分にオーケストラのサークルに入ってオーボエを吹いていました。まあ、大学に入ってから始めた楽器だったので大して腕は上がりませんでしたけれど。で、そのオケは毎年クリスマスの頃になると<メサイア>の全曲をやる演奏会が恒例になっていました。合唱は学内の合唱サークルと系列大学の有志合唱団とで、指揮と声楽ソリスト、チェンバロ、オルガンはプロの奏者を招く、というかたちでした。
 <メサイア>は、名前と「ハレルヤ・コーラス」ぐらいしか知らない状態で僕はサークルに入った訳ですが、知れば知るほど、演奏すればするほど素晴らしい作品であることが理解出来るようになりました。ただ、曲が長い(演奏時間にして2時間30分前後)のと、管楽器チームは出来るだけメンバーが多く舞台に上がれるように、ということで、前半と後半とでメンバー・チェンジをしていました(アマチュア・オケらしい話です)。そのため、大学時代にあった4回の演奏会で全曲を通して舞台に上がったことは1度もありません。4回生の時の最後の演奏会なんかは、引退扱いだったので(後輩の演奏機会を奪ってはいけないのです)舞台に上がらずホールで表方のスタッフをしていましたね。ちょうど卒論提出日で、徹夜明けでヘロヘロになっていましたが。
 さて、僕たちが使っていた楽譜はヘンデルのオリジナルではなくて、19世紀の音楽学者でプラウトという人物が管楽器パートを近代以降のスタイルで書き加えたヴァージョン(プラウト版)でした。オケ側の人数回しの関係や合唱の人数が多いというだけでなく、何よりも祝祭的な行事でもありましたし、少々派手めな感じになっても許されるだろう、という判断もあっての楽譜選択だったかも知れません。
 しかし、練習にあたっては参考のCDとかも探してみるのですが、実は当時(1990年代初頭)の時点でプラウト版を使って録音したプロの演奏はほぼ見当たりませんでした。大概は当時もう主流になりかかっていたピリオド楽器系(古楽系)か、往年の演奏家がヘンデルのオリジナル編成で演奏したものか、ぐらいだったはずです。そもそもCDにすると、上述のとおり曲が長いので2枚組か3枚組になるので、貧乏学生に取っては大きな出費になってしまいます。なので、そんなに何種類も購入することは出来ません。
 という状況で僕が最初に手にしたCDは、レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルの抜粋盤(Sony)でした。聴いてみると、何だか合唱の響きがコワいのです。もちろんマジメにやってはいるのでしょうが。最後の「アーメン・コーラス」なんかはテンポ設定も含めて何だかケンカ腰に聴こえて、変な感じでした。一応、一部にプラウト版も使っていたようだったので、後に興味本位で全曲盤(曲のカットや順番の入れ替えもあり「バーンスタイン版」と言っても良いでしょう)を探して買いましたが、今となってはあんまり一般的とは言えないディスクです。
 その次に買ったのがオットー・クレンペラー/フィルハーモニア管(EMI/ワーナー)の全曲盤でした。今は2枚に収まっているはずですが、当時出ていた輸入盤は3枚組でした。因みに、白状しておきますが、クレンペラーは僕が最も尊敬している指揮者なので愛聴盤も多く、そのためこれからここでもちょいちょい名前は出て来るはずです。
 で、クレンペラーの<メサイア>ですが、これは今でも素晴らしいと思っています。編成はオリジナルのとおり(オーボエ、ファゴット、トランペット、ティンパニと弦楽と通奏低音)ですが、合唱はやや多めな感じ。クレンペラーは「(テンポが遅くて)重い」という印象が一般的なようで、確かにここでも軽やかさとは真逆の演奏かも知れません。しかし、響きだけでなく、合唱パートと器楽パートのそれぞれが織り成す音の動きの明晰さ、そして曲が持つドラマ性、そういったものをトータルした時の音楽の密度の濃さは格別だと思います。
 学生の時に入手した<メサイア>のディスクで、もうひとつ触れておかなければならないのは当時中古LPで入手したトーマス・ビーチャム/ロイヤル・フィル(RCA/BMG)ですかね。これは、「もしヘンデルが20世紀に生きていたら、きっと大編成のオーケストラを使ったに違いない」という仮定で作られた「グーセンス版」というヴァージョンで録音されたものです。なので、オケは打楽器なども含む3管の大編成らしいですし、付け足された音符もたくさん。その上テンポ設定はまさに往年の巨匠風。シンバルが炸裂しブラスがバリバリ吹く「ハレルヤ・コーラス」なんか凄まじいですよ。何だか「総天然色のフルカラー映画」のような一時代前のゴージャスな感じで。まあ、お祭りも極めればこうなる、ということで、僕自身も面白がって聴くことはありますので全否定はしませんが。因みにこの録音も目出度くCDになっています。
 一方で、ヘンデルが意図した響きや当時のテンポ設定などを研究し、その成果を踏まえてそこに立ち返ることにベースを置くのがピリオド楽器系(古楽系)の演奏家たち、ということになるのでしょう。僕自身はどうしても学生の時の自分たちの演奏スタイルも記憶に残っていたので、このスタイルのディスクに触れるようになったのはだいぶ後のことでした。
 楽器編成の小ささや合唱の人数の少なさを考えると、一見迫力の点で物足りなさを思ってしまうかもしれませんが、実際には大概の名の通ったピリオド系の演奏家であれば、その点は大丈夫のはずです。速めのテンポ設定やくっきりした発音によるアクセント付け、更に各パートの絡み具合や動きがより分かりやすくなることで見えて来るドラマ。こうなってきて改めて<メサイア>を聴くと、全ての曲(僕の持っている楽譜では53曲)がドラマと美しさを備えていることに改めて気付かされるのです。当たり前ですけれど「捨て曲」なんて1曲もありません。だから2時間30分なんてあっという間ですよ。それでもキツい感じであれば、コーラスの曲だけからでも聴いてみてください。
 ピリオド系のCDも今はたくさんありますが、例えばポール・マクリーシュ/ガブリエリ・コンソート(Archiv/ユニヴァーサル)とかジョン・エリオット・ガーディナー/イギリス・バロック管(Philips→Decca/ユニヴァーサル)あたりはいかがでしょうか。後者の声楽パートの上手さは未だに別格かも。(ジャケットはマクリーシュの輸入盤)f0306605_232138.jpg
 最後に。
 僕が<メサイア>という作品を素晴らしいと思えるようになったのは、大学の2回生の時のことで、それは今年(2013年)お亡くなりになった小松一彦さんを指揮にお招きした演奏会に参加した際のことでした。ピリオド系のテンポや表現を入れつつ、プラウト版が持つ響きの多彩さも活かした独特なドラマを表現しようとした小松さんは、それを「ネオ・バロック」と言われていたことは今でも覚えています。
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by ohayashi71 | 2013-12-16 02:43 | 本編

第3回:ピアソラ/バンドネオン協奏曲

 今回はアストル・ピアソラの話をします。
 ピアソラの名前を僕が初めて知ったのは、1980年代の後半ぐらいだったと思います。それは現代音楽専門の弦楽四重奏団であるクロノス・クァルテットが初来日した際に、NHKのニュースで彼らが紹介されていて、その中でピアソラの曲を激しく演奏していた映像が流れたように記憶しています。ただ、その時はクロノスの印象の方が強かったはずです(因みにそのピアソラ作品はおそらく<フォー、フォー・タンゴ>という曲です。クロノスの<冬は厳しく>というアルバムに収録されています)。
 そして関西で学生生活、という名の音楽生活を送っていた僕はある日(多分1991年のこと)大阪の心斎橋のタワーレコードに行きました。何目当てで行ったかは覚えていませんが、クラシックのフロアでびっくりするくらいにカッコイイ音楽が流れていることに気付きました。どうやら発売されたばかりのクロノス・クァルテットのCDでした。それがピアソラの<ファイヴ・タンゴ・センセーションズ>という作品でした(Nonsuch/ワーナー)。それはピアソラ自身が加わってクロノスと演奏をした作品でもあったのですが、これが僕にとっての初のピアソラ体験でもありました。<ファイヴ・タンゴ・センセーションズ>は、今改めて聴くと、特に前半が若干ユルいかなとも思うのですが、動きのある楽章でのシャープさ(ピアソラもクロノスも)はやっぱりカッコイイなと。
 で、そこまでがピアソラ存命中の話。ピアソラは1992年に71歳で亡くなっています。
 そして、その次の大きなピアソラ体験は数年後に突然訪れました。その頃、僕は水戸に居たのですが、休みの度に東京に出かけて行ってCD漁りをしていました。ある休日、例のごとく東京に出かけ、最後に新宿のタワーレコード(今とは場所が違って、当時はルミネの上の方にこじんまりとやっていましたかね)に立ち寄りました。棚を眺めていてふと目に飛び込んできた文字をよく読むと、ピアソラのバンドネオン協奏曲とあります。直感的に「これはイケる!」と思った僕はレジに直行です。
 移動用にポータブルのCDプレイヤーを持ち歩いてた僕は、上野から水戸に向かう電車に乗り込んで席に座ると直ぐに封を切って買ったばかりのピアソラのCDを聴き始めました。
 出だしのノリを聴いただけで、僕は大きくガッツポーズをしました。少なくとも心の中では。
 ピアソラのバンドネオン協奏曲は、クラシック的な意味での協奏曲そのもので、独奏バンドネオンのバックには弦楽合奏、ピアノ、ハープと打楽器が付いており、急-緩-急の3つの楽章から成っています。バンドネオンはリズミカルに舞ったり、孤独や哀愁という表現が相応しいため息のようなフレーズを弾いたりするのですが、それらはタンゴやミロンガのノリそのものです。これはピアソラでないと作り出すことが出来ない独特な緊張感のある音楽でもあると思います。
 そういう意味で、ピアソラの自作自演のディスクというのは非常に重要だと思います。で、今回は上述したバンドネオン協奏曲の自作自演のCDをオススメしておきます(Nonsuch/ワーナー)。f0306605_441778.jpgバックには<ミッション・インポッシブル(スパイ大作戦と言った方がピンときますが)>のテーマ音楽を書いたラロ・シフリンが指揮する、セント・ルークス室内管弦楽団が付いています。因みに、ピアソラとシフリンは共にアルゼンチン出身であり、彼らはピアソラのパリ時代には既に共演していたそうなので、このディスクでの共演は別に唐突なものではないでしょう。
 ピアソラの音楽が日本で広く一般的になったのは、ヨーヨー・マがCMで<リベルタンゴ>を弾いていたあたり(CDも大ヒットっしましたが)なのでしょうが、その前にはギドン・クレーメルの一連のピアソラ・シリーズの第1作である<ピアソラへのオマージュ>も出ています(1996年/Nonsuch/ワーナー)。そうした流れを受けてか、当時、特にクラシック系の演奏家がこぞってピアソラ作品を取り上げていたはずです。ただ、クレーメルを除けば、クラシック系の演奏家でピアソラの自作自演に匹敵するレヴェルでピアソラの音楽の凄みを伝えてくれた演奏はほとんど無いようにも思います。まあ、これはあくまでも僕の主観ですが。
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by ohayashi71 | 2013-12-01 04:09 | 本編


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