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第8回:ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調 Op.78

 去年、仕事である演奏会のプレ・イヴェントとしてブラームスについて話す機会がありました。喋りだけではお客さんも面白くないでしょうから、ブラームスについて何枚か資料を作って配ったのですが、そこにブラームスの写真を2枚載せておきました。ひとつは晩年のもの、もうひとつは青年期のものです。どちらもそれなりに知られている写真ですが、どちらかと言えば晩年の方のものにより馴染みがあるのではないでしょうか。並べてみると別人かと思うぐらいに見た目が違うのですけれど。
 さて、どんな人でも若い時代というのは当然ありますが、ブラームスの音楽を聴いていると、それがたとえ彼の青年期の作品でもあっても、何故か僕はその晩年の姿の方を思い浮かべてしまうことがあります。もちろん、結果論的に言えば僕たちは実際の晩年の作品も知っているから、それらと比較すると表現が「若い」ようには思うのでしょうが、でもそこに習作的な雰囲気や過渡期的な様子があんまり窺えないのもまた事実であるような気がします。要は、ブラームスは活動初期から既にハイ・レヴェルに完成された作曲家だった、という意味です。だからブラームスの作品にハズレが少ない。まあ、それはあくまでも少なくとも僕から見れば、ということで。
 その一方で、ブラームスの音楽について「渋い」という言い方をすることがあります。難解とまでは行かないまでも、地味だったり愛想が無かったり。なので、その渋みの良さが分かるようになるためには、僕の場合は自分自身が経験を積むであったり、年齢を重ねていくことが必要でした。
 そうやってようやく付き合えるようになったのが、ブラームスの室内楽作品でありピアノ独奏曲です。結構な数にはなりますが、名曲揃いだとも思います。
 今回はそこからヴァイオリン・ソナタの第1番を。
 完成、初演が1879年と言いますからブラームスが46歳の時の作品ということになります。4つの交響曲で言えば最初の2曲は既に世に出た後です。交響曲のがっちりとした重厚な佇まいとは異なり、3つの楽章のいずれもが流れるように美しい音楽ですが、僕は特に第3楽章に惹かれます。
 と言うか、このソナタの肝は第3楽章にあります。第3楽章の冒頭に出る主題は第1楽章の主題と関係がありますし、第3楽章の中間には第2楽章の主題が再帰してくるのです。最終楽章としてのまとめということにはなるのでしょうが、しかし、そもそも第3楽章冒頭の主題がブラームスの別の作品からの引用なので、このソナタ自体の出発点は第3楽章にある、というか第3楽章を導き出すために前2つの楽章があると言いたくなってしまう作りになっているのです。しかも、この第3楽章はナイーヴでウェットで優しさのある音楽であって、交響曲第1番のような圧倒的な輝きのフィナーレとは真逆な存在なのです。
 引用と書きましたが、元ネタはブラームスの歌曲集<リートと歌>Op.59の第3曲<雨の歌>であり、第4曲<余韻>です。この2曲ではそれぞれ最初に全く同じ節が出てきます。で、その節をブラームスはヴァイオリン・ソナタのためにまた使ったということです。
 旋律美と器楽ソナタとしての構成とのバランスを両立させた魅力的な作品、それがこのソナタであるというふうに僕は思っています。
 CD。たくさんありますが、僕の基準は第3楽章で。早過ぎず遅過ぎず、また弾き過ぎずというイメージにしっくりくるのはオーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン)とマリア・ジョアオ・ピリス(ピアノ)のコンビによる演奏(DG/ユニヴァーサル)ですかね。あと、ブラームスと同時代のピアノを使ったピリオド系の演奏であるイリヤ・コロル(ヴァイオリン)、ナタリア・グリゴリエヴァ(ピアノ)(CHALLENGE CLASSICS)も結構聴いています。
 それと因みに元ネタの歌曲2曲はディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの歌とイエルク・デムスのピアノで(DG/ユニヴァーサル)。
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by ohayashi71 | 2014-01-23 03:30 | 本編 | Comments(0)

第7回:モーツァルト/交響曲第38番二長調K.504

 満は持していませんが、ようやくヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~91)のことを。
 僕が最初に買ったモーツァルトのレコードは、ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団の交響曲第39番変ホ長調K.543と第40番ト短調K.550のLPでした。因みに中古で。これは中学から高校時分によく聴いたものです。特にト短調の方。
 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」だったり、「トルコ行進曲」を含むピアノ・ソナタ第11番とかも親しみやすい音楽であることは承知していましたが、それよりも彼の短調作品が持つドラマの方に音楽少年としては大いに惹かれたのでした。そのドラマ性にロマンティックな味わいも加味したのがワルターの演奏だったように思います。ト短調交響曲の第1楽章の再現部の途中で、楽譜に無い一瞬のパウゼ(休止)を挟むことで高まる悲愴感には今でもドキドキしてしまいます。
 ただ中学時代の後半に、僕はブルックナーにガッツリとハマッてしまい、まあそれはそれで良かったのですが、そのおかげで、いわゆる「クラシックの王道中の王道」的な作曲家やレパートリーを積極的に聴いていく感じにはならなくなりました。普通のクラシック好きなら知っていて当たり前、という曲はあんまり知らないのに「誰が聴くねん!」という曲は何故か知っている、そんな不順で不純な音楽青年に僕は育ちました。大学生時代にはモーツァルトの作品を実際にいくつか演奏もしましたが、まだ素晴らしさを十分に分かってはいなかったと思います。
 そんな僕とモーツァルトとの距離感(と書くと大げさでしょうが)を大きく変えたのは、社会人になって最初の職場での市民オペラの制作体験をした時でした。そこで僕はモーツァルトの<魔笛>と<フィガロの結婚>の上演に担当の一人として関わりました。上演は日本語でしたし、オケは使えないのでエレクトーンで代用という変則的なものでしたが、一方で半年以上の稽古期間もずっと立ち会ったおかげで、台詞や物語と音楽との非常に濃い関わり具合の面白さをしっかりと味わうことが出来ました。それ以降、僕は「モーツァルトはオペラ!」と信じるようになりました。
 一癖もふた癖もある多くの人物が登場して、錯綜し、おのおの喜怒哀楽をぶつけ合いながら話が進み、最後に最高のハッピーエンドを迎える喜劇<フィガロ>は、今で言えば三谷幸喜ばりの面白さに満ちた作品だと思います。また、音楽と話の筋自体はねじれがある<魔笛>にしても、第2幕終わり近くのパパゲーノとパパゲーナの再会の場面は、微笑ましいけれどその軽やかさの中に見える愛の勝利がとても感動的ですらあります。実は僕は当時上演の際、その場面になると舞台の袖で涙ぐんでいました。まだ本当のフィナーレ、大団円ではないはずなのに、です。もうそこでお話が終わってしまって良いんじゃないか、と本気で思ってもいましたね。
 で、そういった経験をしてみると、モーツァルトのいろいろな音楽、特に器楽作品の見え方も変わってきます。
 ということでようやく交響曲第38番二長調K.504です。初演の場所に因んで「プラハ」とも呼ばれています。急―緩―急の3つの楽章から成っていますが、楽譜に指示されている繰り返しをどの程度やるかによって演奏時間もだいぶ違ってきます。ワルターやカール・ベームをはじめ、往年の指揮者は大体繰り返しを全部はやっていないので25分から30分ぐらいなのですが、近年のピリオド楽器系の演奏になると35分から40分近くかかります。
 繰り返しというのは、単に形式的なものもありますし、省略しても大して印象の変わらない作品だってあるのでしょうが、「プラハ」の場合だとこれは是非やってほしいなあと僕は思っています。まあ、やらなくても優れた作品であることには変わりありませんが、やった場合だとベートーヴェンの、例えば「英雄」交響曲のようなスケールの大きな作品であるように思えてくるはずです。
 重々しささえ覚える第1楽章の長い序奏に続いて、アレグロで晴れやかな主部が始まります。音楽の流れは滑らかですが、楽譜を見ると非常に凝った造りになっています。ソナタ形式で言うところの提示部のことですが、それは後に続く展開部で示されるドラマへの伏線だらけなのです。このドラマの高揚感は、正直なところ、モーツァルトが「プラハ」の翌年に書いた最後の3つの交響曲(第39番~第41番「ジュピター」)よりも僕は強いものを感じています。オペラのように歌詞や物語があるドラマとは違いますが、器楽だけで作り上げることの出来るドラマの可能性を、彼は一気に拡げたようにも思えます。
 続く2つの楽章でもそれぞれに素晴らしい音楽ですが、プレストの第3楽章で畳み掛けるようにコーダに突き進んで行ったかと思った瞬間に、反復記号によって展開部以降の繰り返しが始まるところなんかは、僕は聴く度に、つい軽く興奮してしまいます。
 さてディスクですが、僕の愛聴盤と言えばまずはトレヴァー・ピノック/イングリッシュ・コンサート(Archiv/ユニヴァーサル)です。僕は彼の指揮による「プラハ」の実演を観たことがありますが、それはそれはとても素晴らしかったです。今であれば、多分モーツァルトの交響曲全集のボックスというかたちでしか入手できないかも知れませんが、初期から中期のモーツァルトの交響曲も聴く分には良いセットだと思います。
 ピノックは第1楽章の展開部以降の繰り返しはしていませんが、それもやっている演奏としてはチャールズ・マッケラス/スコットランド室内管弦楽団(Linn)を挙げます。こちらは「プラハ」から「ジュピター」までの4曲収録の2枚組です。演奏がしっかりしているおかげで、繰り返しによる冗長さなど全く無いと思います。
 往年の名演系であれば、やっぱりカール・ベーム/ベルリン・フィル(DG/ユニヴァーサル)でしょうか。
f0306605_23411474.jpg(ピノック盤(左)とマッケラス盤)f0306605_23413858.jpg
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by ohayashi71 | 2014-01-14 23:46 | 本編 | Comments(0)

第6回:プーランク/グローリア

 年が明けました。
 今年もそれなりにお付き合いいただると幸いです。
 さて、この時期だとニュー・イヤー・コンサートのことを話題にした方が良いのかもしれませんが、今日は、しません。特に深い理由はありません。まあ、ここで書くならコレ、というのはあるのですが、それはまたの機会に。
 で、今回はフランシス・プーランク(1899~1963)の<グローリア>を。
 僕がプーランクの音楽をちゃんと聴いたのは、最初の職場で初めて解説を書くことになった時だったと思います。ものはピアノと管楽器のための六重奏曲でした。軽妙さとシリアスさが隣り合わせになっていて、とても不思議な感じがしたのですが、その後、プーランクの他の作品をいろいろ聴いていくと、その隣り合わせは彼の音楽ではしばしば見られるものだということが分かってきました。
 <グローリア>を知ったのも多分その解説を書くための参考のひとつとして聴いたからだろうと思います。僕が入手したCDはジョルジュ・プレートルがフランス国立放送管と合唱団、それにソプラノ独唱のロザンナ・カルテりと1961年に録音したものでした(EMI/ワーナー)。最初はカップリングされていた<オルガン、弦楽合奏とティンパニのための協奏曲>(オルガンは作曲家としても有名なモーリス・デュリュフレ)に興味があって買ったもので、それはそれで作品自体も演奏も素晴らしい内容だったのですが、<グローリア>にも直ぐ惹かれました。
 さすがに宗教曲(プーランクは敬虔なカトリックだったそうです)なので、他の作品に比べると軽妙さは薄いかもしれませんが、荘重過ぎない輝かしさと真摯さ、そして何よりも随所で聞こえてくる美しいメロディ。声楽を伴うので、もちろんメロディアスであって欲しいのですが、それは大衆的なセンスを持ったメロディと言えるかもしれません。大衆的な、と書きましたが、それは例えばシャンソンのような歌謡曲にも通じるセンス、と言い換えても良いです。いわゆるクラシック音楽的な、少し意地悪な表現をすれば取り澄ましたような「美メロ」なんかよりも、もっとストレートに現代人である僕たちの感覚に訴えかけられる、親しみやすい美しさが含まれているように思います。f0306605_233498.jpg
 プレートルの<グローリア>のディスクはプーランクが立ち会って行われた世界初録音でした。だからなのかもしれませんが、全曲通して作品に対する熱い共感がビンビンに伝わってくる演奏です。プレートルの他にもいくつかの録音を聴いてはいますが、結局僕はプレートルのCDをいちばん多く聴いています。オケにしても合唱にしても、他の演奏の方が綺麗に整っていたり、スマートだったりはすることがあるのですが、プレートル盤の何だかザラリとした感触が、前述した作品への共感に結び付いているように思えて仕方がないのです。更に、ソプラノ独唱のカルテりが美しい声で本当に素晴らしい。とは言え、現在、プレートル盤はプーランクの作品全集20枚組のセットぐらいでしか入手が難しいらしいので、例えばリチャード・ヒコックス指揮のもの(Virgin/ワーナー)とかでもアリかと。
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by ohayashi71 | 2014-01-08 02:35 | 本編 | Comments(0)


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