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第33回:シベリウス/交響詩<タピオラ> 作品112

 僕が初めて聴いたジャン・シベリウス(1865~1957)の作品と言うと、やっぱり交響詩<フィンランディア> 作品26でした。勇壮さと清澄さが分かりやすく置かれているので人気曲になるのも当然と言えば当然なのかも知れませんが、だからと言って僕はスッとシベリウス好きにはならなかったですね。
 本当に彼の音楽に興味を持てたのは大学2回生の時に交響曲第1番ホ短調 作品39をオケで実際にやった時でした。もっとも、僕は本番のステージではなくて、練習の時だけの代役でオーボエを吹いただけでしたけれど。それでもその間に僕はシベリウスの音楽の素晴らしさに強く惹かれるようになったことは事実です。シベリウスの交響曲第1番は、例えば同時代のグスタフ・マーラー(1860~1911)の最初の4つの交響曲ほどには神経質なぐらいの強烈な主張は無いかも知れません。それでも良い意味でのきめの粗さが情熱的なものとして捉えられ、かつ民族的な躍動感や叙情性が音楽に自然な流れを与えており、聴き手に強い共感と高揚感をもたらしてくれる作品だと思います。
 ということで、そこから僕はシベリウスの他の作品にも興味を持つようになっていきました。聴いてみると管弦楽作品はどれもこれも素晴らしい。7曲ある番号付きの交響曲はどれも個性的で面白いし、結構な数になる交響詩も曲の大小に関わらず優れたものが多いと思います(ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47も当然名曲ですけれど)。だからここでとりあえずの1曲をどうしようと考えてみると、本当に決められなくて困りました。
 困った挙句で挙げてみるのは交響詩<タピオラ> 作品112です。<タピオラ>は1925年、シベリウスが60歳の年に完成しており、彼にとって最後の一連の交響詩の中で最後にあたる作品です。しかも彼はその後91歳で亡くなるまでほとんどまとまった作品を手がけておらず、<タピオラ>は彼のほぼ最後の作品と言ってしまっても良いぐらいの曲でもあるのです。
 タピオラはフィンランドの叙情詩<カレワラ>に登場する森の神であるタピオの土地という意味のようですが、シベリウスはそれまでに書いた<カレワラ>に基づく交響詩とは異なり、交響詩<タピオラ>では特に物語を描いた訳では無いそうです。だからここで表現されているのはイメージの中の森とその空気感ということになるのでしょうか。
 実際の作品はどうか。ここでそんなに多くの素材をシベリウスは用いていません。民族的な節回し(古い教会旋法にも通じる)の素材や主題的旋律は確かに存在はしていますが(それとても地味なものかも知れませんが)、それらが線的な(対位法的な)意味で曲の構成をがっちり支配している訳ではなく、それらは抑制されているけれど巧みな響きの変化(音色、音量)がもたらす劇的表現と結び付くことで独特な音空間を生み出しているのです。
 この音の空間。ある時はクリアで硬質なものであり、またある時は茫洋と、朦朧とした霧の壁のような響きでもあります。イメージの中の森と言いましたが、それをまた旋律に依らず響きの抽象性で描き切ることの凄さ。空気感を音で表す、という意味では飛躍してしまいますが、例えば街の雑踏や喧騒も含めて描いたチャールズ・アイヴズ(1874~1954)の<宵闇のセントラルパーク>(1906年)や、粒子の動きを顕微鏡で覗いたかのようなジェルジ・リゲティ(1923~2006)の<アトモスフェール>(1961年)等と同じカテゴリーに入れてもおかしくないぐらいの新しい音楽表現であったようにも思います。しかし、その意味でそれがシベリウスの臨界点であり、究極的な表現だったのかも知れません。
 さて<タピオラ>のディスク。どうしても<フィンランディア>とかの方が目立っていますが、数的には<タピオラ>も結構ありますし、優れた演奏も多いように思います。僕がいろいろ聴いた中ではレイフ・セーゲルスタム/ヘルシンキ・フィル(1994年録音)(Ondine)と、パーヴォ・ベルグルンド/ボーンマス交響楽団(1972年録音)(Warner Classics)といった辺りが特にぴったりとハマっています。
  ところで、<タピオラ>を聴いていて僕がふと思い出したのが長谷川等伯(1539~1610)の有名な<松林図屏風>です。シベリウスが描いたフィンランドの森とはもちろん違うけれど、何か相通じるような空気感がそこには漂っているような気がしてなりません。

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by ohayashi71 | 2015-01-06 01:40 | 本編


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