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第39回:マンロウ<ゴシック期の音楽>


 音楽の聴き方に正しいも間違いも無い以上、特定のジャンルや時代、作曲家あるいは作品ばかりを聴き続けたって何の問題もありませんが、とは言え僕はもったいながりなのでしょうか、自分の鑑賞レパートリーを限定してしまうのはどうかと思っています。少なくとも僕にとっては、音楽を聴くことについて美学や表現、趣味(嗜好の意味として)の違い自体に面白みを見出すことが楽しみだったりもするのです。

 その意味でバロックよりも古い音楽は、僕にとってはまだまだ未知の世界であって(もちろんそれ以降の音楽だって何を知っている訳ではありませんが、あくまでも比較の問題として)、だからこそ楽しみを見つけやすい状態であることは確かです。

 ということで、今回はこれまでよりもずっと古い音楽のことを。

 デヴィッド・マンロウ(194276はイギリス出身の管楽器奏者であり、音楽学者であり、古楽アンサンブルの主宰者だった人物です。彼の活動期間はわずか10年間ですが、その間に実に多くのアルバムを世に送り出しています。今でこそ中世やルネサンス期の音楽を収録したアルバムはさまざまな音楽家がたくさん作り出していますが、マンロウの活動や録音はそういう流れの最初の方に属するものだと考えて良いと思います。

 その意味では現在の音楽家たちの方が演奏の洗練度や精緻さは表現として増しているのかも知れませんし、あるいは研究の成果というものも含まれているのかも知れません。しかし、時代考証の正確さだけが聴き手の感動に直接結び付くものでないことは当然です。その点、少なくともマンロウの演奏を聴いた時、「退屈な博物館見学」をしているような感覚にはなりません。よく出来たコンピューター・グラフィック(CG)よりも手書きのイラストの方が「何だか伝わる」という感じでしょうか。歴史よりも生活感(人肌の感覚という意味で)を感じる演奏と言っても良いのかも知れません。

 マンロウは素晴らしいアルバムをいくつも遺していますが(例えば、かつて東芝EMIから<デヴィッド・マンロウの芸術>として発売されたシリーズなど)、僕がいちばん好きなのはマンロウがロンドン古楽コンソートと共に作った<ゴシックの音楽(Musicof the GothicEra)>というアルバム(Archiv/ユニヴァーサル)です。オリジナルのLP3枚組(CD2枚組)で、12世紀後半から13世紀前半の「ノートルダム楽派の音楽」、13世紀中盤以降の「アルス・アンティクァの音楽」、そして14世紀の「アルス・ノヴァの音楽」で構成されています。 

 僕が最初に気に入っていたのは「ノートルダム楽派」として扱われているレオナン(レオニダス)とペロタン(ペロティヌス)の音楽でした。グレゴリオ聖歌の素朴な神秘さや荘厳さとは異なり、そこに不思議な浮遊感が加わった、ある種の異様さすらも覚える音楽と言っても良いでしょう。それは単に斉唱が多声の合唱に変化しただけと言うには留まらない独特な美学が働いているように思います。当然のことながら、この美学(仮にそう呼んでおきますが)には「信仰」活動あるいはその表現の「かたち」の一種としての音楽、という意味合いも含まれていたと考えるべきです。

 それから13世紀の声楽曲をまとめた楽譜集<モンペリエ写本>に掲載されている作者不詳の<誰かが私を見てるかどうか(S'onmeregarde)>。二重唱で民謡的な旋律が歌われますが、2つのパートは主従関係というよりも、絡み合って一体となって響いている状態であって、僕はそこに美しさを覚えます。更にフィドルやハープが伴奏や間奏に加わることで彩りが増しているように思います。

 また「アルス・ノヴァの音楽」のひとつとして紹介されている作者不詳の<カタカタコットン、ある朝ロバンは(Clap,Clap, Par Un Matin)>はカタカタコットン、ある朝ロバンは粉挽小屋にコットン、おでかけ」と歌われる曲で、二重唱がClapという単語を何度もそれぞれで繰り返すことで調子が付いていてとても楽しい一曲です。

 ペロタンのように演奏時間にして10分を超えるような宗教的な作品がある一方で、1分少々でさっと終わってしまう世俗的な音楽も数多く収録されており、イメージ以上に幅広い中世ヨーロッパの音楽世界を概観するにはもってこいのアルバムだと思います。今は残念ながら国内盤が入手しづらいようで(抜粋して1枚にまとめたものもかつて出ていましたが)、解説や対訳のことがあるにしても、まだこの時代の音楽をあまり知らないという方であれば、輸入盤ででも一度触れてみると大変面白く感じていただけるかと。
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by ohayashi71 | 2015-07-02 23:24 | 本編


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