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はしやすめ その4:フェラ・クティ

 先日、久しぶりに映画館で映画を観ました。ジェイムズ・ブラウン(JB)を主人公にした映画で、大体伝記的なものでした。脚色も入っていたようなので、それは多少差し引くにしても面白く観ました。実は僕はJBの音楽は結構好きで、アルバムも10数枚ぐらいは持っていると思います。彼の膨大な録音歴からするとごく僅かですけれど。で、その中でも最も愛聴しているのは1960年代末から70年代前半にかけての頃のアルバムです。ちょうどJBが<セックスマシーン>とかを歌っていた頃ですね。この時代の彼の音楽はファンクと呼ばれていますが、一糸の乱れも無くバンドが同じフレーズ(ほぼリズムと同義と言って良いと思います)を繰り返す上に、JBの熱狂的なヴォーカルがかぶさってくるもの、という言い方でおおよそ説明が付くはずです。もし、機会があれば<Love Power Peace>と題された1971年パリでのライヴ・アルバムを聴いてみてください。バンドと一体となったJB(と相方のボビー・バード)の凄まじいパフォーマンスは、黒人解放運動やベトナム戦争反対の空気を生み出していた時代の熱気に後押しされたものでもあり、恐らく同じようなオーラを再現することはもはや難しいのではないかと思います。
 さて、ここからようやく本題。
 JBの表現は猥雑さも交えつつの社会批評でもあった側面があると僕は思っていますが、そんなJBに影響を受け、更に自分の直面した不条理な社会の問題に真正面からぶつかっていったのがナイジェリアのミュージシャン、フェラ・クティ(1938~97)です。フェラは自分の音楽をアフロビートと呼びました。それはJBのファンクに民俗音楽(JBだってアフリカ的でしょうが、フェラの場合、更に土着の、という意味で)やジャズの要素を加えたもので、結果こんな音楽になりました。ある種粘着的なリズム・パターンがバンドによって延々と繰り返され、そこにフェラが吹くサックスやキーボードが即興的に、攻撃的に絡みます。それがずっと続きます。しかし、実はこれは後に続く歌の前奏に過ぎません。曲によっては10分以上この状態が続くのです。こうして場の熱が十分に高まったところで、ようやくフェラの歌が始まります。
 彼がしばしばテーマとしたのは当時軍事政権の抑圧化にあったナイジェリアの状況や欧米文明がもたらした社会の歪みであり、それらに対する痛烈な批判や皮肉、反抗的な姿勢でした。そのためフェラは長年にわたり公権力との闘争を続けました。彼の私生活には確かに脱法的と捉えられるような行為もありましたが、公権力はそれ以上に彼の反抗的な音楽表現を恐れました。不当逮捕、収監が何度も行われただけでなく、軍隊による襲撃まで彼に対し公然と行われたのですから(フェラ自身がけがをしただけでなく、彼の母親はこの時の傷が元で死に至りました)、余程のことだと捉えるべきでしょう。
 それでも彼は1980年代の初頭まではこの不屈の姿勢を貫きました。それ以降は宗教的色合いを過度に強めたために、その分音楽的な強度が失われたと言われることもあるそうです。フェラもまた多数の録音を遺しており、僕が知っているのはやはりその一部でしかありませんが、結局最も凄みや熱を感じさせてくれる1970年代の作品が面白いのではないかと思います。
 例えば、軽快なテンポの音楽の中で軍隊をゾンビになぞらえて歌った<ゾンビー(Zombie)>(1976)、投獄経験を歌った<アラグボン・クローズ(Alagbon Close)>(1974)、上述した軍隊による襲撃事件をテーマにした<カラクタ・ショー(Kalakta Show)>(1976)等々。
 カップリングが変わったり廃盤だったりと、いろいろ聴こうと思ってもなかなか面倒な感じはありますが、輸入盤、国内盤、新品、中古、配信、更にベスト盤のいずれを問わず、フェラ・クティという名前にピンと来たらぜひ手を出していただければなあと思います。歌詞はともかくにしても、腰でリズムをついつい取ってしまいたくなるような音楽としての魅力は間違いなくあると思いますので。
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by ohayashi71 | 2015-08-15 00:29 | はしやすめ

第40回:バーバー/ヴァイオリン協奏曲 作品14


 サミュエル・バーバー(191081)というとまずは<弦楽のためのアダージョ>でしょうか。単に美しいだけでなく、悲愴美と言い表した方が良い音楽が次第に高まり、いちばん空気が張り詰め切った瞬間に訪れる静寂、そして余韻を漂わせながら静かに閉じられる音楽。ここにあるのは耽美や甘さではなくて、透徹した美に貫かれた抒情というべきものでしょう。この類の抒情性こそ、新しいロマン主義と呼ぶべきものかもしれません。その新しさは僕たちも同時代人として理解、あるいは共感出来るものだろうと思います。だからこそ、この<アダージョ>は20世紀生まれの音楽(1930年代)としては人気や知名度が高いのでしょう。

 僕にとっての「初バーバー」はやはり<アダージョ>でした。で、ひとまずバーバーはこの1曲だけでも良いのかな、と思っていたら大間違いでした。次に知ったのはソプラノと管弦楽のための<ノックスヴィル・1915年の夏>という作品でした。上述した透徹美の抒情は共通していると思いますが、今度は、まあ歌曲であるだけにというのはあるにせよ、ノスタルジックな雰囲気がそこに加わっており、その何とも言えない空気感が素敵だったのです。湿度は高くない爽やかな空気、という感じでしょうか。

 僕は<アダージョ>と<ノックスヴィル>が収録されたCDを大学2回生の頃に見つけて購入しましたが、それは今でもお気に入りの1枚です。それはリチャード・ヒコックス指揮のシティ・オブ・ロンドン・シンフォニアの演奏で、<ノックスヴィル>ではジル・ゴメスが加わっているものです(Virgin)。因みにこのCDの他の収録曲は、コープランドの<アパラチアの春>のオリジナル編成の13楽器による版(現在よく聴かれているのは後に拡大された管弦楽版)とトランペットとイングリッシュ・ホルンと弦楽合奏のための<静かな都会>、ガーシュウィンの<ラプソディ・イン・ブルー>(ピアノはウェイン・マーシャルで、こちらも小編成版)という感じで、今考えてもとてもオイシイ内容だったと思います。ところが、このCD、現在は入手困難らしく、非常に残念なことです。

 さて、その次に知ったバーバー作品が<ヴァイオリン協奏曲>でした。これはとある演奏会で聴いたのが最初で、それからだいぶ経ってからアイザック・スターンのソロとレナード・バーンスタイン指揮のニューヨーク・フィルの録音(Sonyを聴くようになってから名曲だと思うようになりました。

抒情性の豊かさについてはこれもまた同様ですが、ヴァイオリン協奏曲であるからには当然にしても、清冽な水の流れのようなメロディの数々もとても魅力的でした。

 第1楽章の冒頭から直ぐにソロ・ヴァイオリンが歌うように主題を奏でるのですが、それは大見得を切ったり、華々しくテクニックを披露するような感じからは程遠いものです。その分、独特な、結局のところさっきからずっと繰り返し書いている抒情的な世界が拡がります。この後に出てくるクラリネットで出てくる主題はリズミックな動きも見せますが、最初の主題の雰囲気を受け継ぐものでもあるように思えます。第1楽章はこの2つの主題によるソナタ形式で書かれていますが、決して奇を衒うような表現は現われません。

 アンダンテの第2楽章にしても表現上のヤマは存在しますが、どちらかと言うとつつましいものだと僕は思います。もちろん、そのつつましさの中にも確かな美が込められているとも思っています。

 この2つの楽章から一変して最後の第3楽章は実に動きの激しい楽章です。ソロの切れ味たっぷりの無窮動ぶりが鮮やかな音楽です。バーバーは抒情の裏返しのごとく、こういうテクニカルな音楽を急に(当然聴き手の側からすると、という意味で)持ってくることがありますが、ヴァイオリン協奏曲もその一例。各楽章の規模からするとアンバランスさはあるかも知れませんが、音楽の流れとしての対比を示すことでひとつの世界と看做す、というのはやはり面白いと思います。バーバーがこの協奏曲を作曲したのは1939年ということですから、ベルク(1935年)、プロコフィエフの第2番(1935年)、バルトークの第2番(1938年)、ヒンデミット(1939年)、ウォルトン(1939年)、ハチャトゥリアン(1940年)といったヴァイオリン協奏曲の名作と同時期に生まれたことになる訳ですが、それらと並べてみても結構特異な立ち位置にあるのではないでしょうか。

 ディスク。上述したとおり、僕はスターン/バーンスタイン盤をずっと聴いてきましたが、以前よりも若い世代のヴァイオリニストの録音が増えてきているようで、その中ではとりわけヒラリー・ハーンのソロとヒュー・ウォルフ指揮のセントポール室内管による1999年の録音(Sonyが素晴らしいと思います。あまりに抒情性に身を委ね過ぎることのない、ほど良い佇まいと、そして第3楽章で見せる圧倒的なテクニック(僕が聴いた中では最もテンポが速いかも)。

 もしバーバーの音楽について<アダージョ>しか知らないという方、次はぜひこの<ヴァイオリン協奏曲>を。


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(ハーン盤とスターン盤)
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by ohayashi71 | 2015-08-05 01:17 | 本編


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