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第45回:メールラ/カプリッチョ・クロマティコ

 またマイナーと言えばマイナーな作曲家なのでしょうが、面白かったので。
 今回は、タルクィニオ・メールラ(Tarquinio Merula:1595~1665)というバロック初期のイタリアの作曲家の曲を。彼と同時代に活躍したイタリアの作曲家としては、クラウディオ・モンテヴェルディ(1567~1643)であったり、ジローラモ・フレスコバルディ(1583~1643)あたりを挙げることになろうかと思われますが、ということはオペラというジャンルが確立されて人気を博していく時代でもあり、オルガンやチェンバロのような鍵盤音楽についてさまざまな表現が試みられていった時代でもあった、と言えるでしょう。因みに日本で言えば、江戸時代が始まった時期ですね。
 さて、メールラはイタリア北部の出身で多くはその地域で教会の音楽家として活動していますが、一時期はポーランドの宮廷に仕えていたこともあったそうです。彼は当時の新しいスタイルを積極的に取り入れた音楽をたくさん遺したとされていますが、僕はまだ彼の音楽を十分に聴いている訳ではありません。しかし、今回ご紹介する<カプリッチョ・クロマティコ(Capriccio cromatico=半音階的カプリッチョ)>の1曲だけでも僕は彼に強い興味を感じていますし、少し突っ込んで聴いてみたいような気もあります。
 何年か前にグスタフ・レオンハルトの<ルネサンスとバロックのオルガン(The Organ in the Renaissance and the Baroque)>という5枚組のアンソロジー(Vivarte)を入手しました。レオンハルトのアルバムはどれも傾聴すべきものだとは思っていましたが、これもやはりそうでした。このボックスは、その時代に生み出されたヨーロッパ各地のオルガン音楽を数多く収録したもので、まあ、正直僕がここで初めて知った作曲家や作品が多かったのも事実です。オルガン音楽のひとつの頂点はヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685~1750)の作品群であると思いますが、大雑把に言ってしまうと、このボックスはそこに流れ込んでいくことにもなるさまざまなオルガン音楽をまとめたものだとも言えるかと思います(ここにはバッハに直接影響を与えたディートリヒ・ブクステフーデ(1661~1733)の作品は含まれていませんけれど)。
 このボックスはもともと別の4つのアルバムをまとめたものだったのですが、その中で<アルプス地方のオルガン>と題され、イタリア北部、オーストリア、ドイツ南部辺りの作曲家の作品を集めたものの中にメルーラの<カプリッチョ・クロマティコ>が含まれていました。因みにIMSLP(ペトルッチ楽譜ライブラリー)というインターネット上の楽譜図書館にこの曲があるので、それに拠って話を進めます。
 それは出だしから不思議な音楽でした。
 4分の4拍子。まず二分音符でD(レ)が延ばされ、その後四分音符で半音ずつ上昇し、A(ラ)で一旦立ち止まりますが、また更に半音ずつ上昇していきます。そしてE(ミ)に辿り着くのと同時に下のパートでA(ラ)が二分音符として延ばされます。こちらも半音ずつ、ちょうど最初の動きを模倣するかたちで弾かれていきます。上のパートは十六分音符と八分音符を交えた別のフレーズを入れていきます。
 このフレーズは何度か繰り返された後、別の新たなフレーズに切り替わっていくのですが、高音部か低音部かのどちらかではずっと半音上昇の動きが並行して奏でられていくのです。しばらくそういう状態が続いた後、今度は半音ずつ下降していく動きが基礎になって、それにまた別のフレーズが絡んでいく、という感じで曲は進みます。途中、何度か半音の動きが切れますが、そこで音楽の流れ方が変わる訳でもなく、また半音下降の動きが再開されます。こういうある種のテキトーさがあっても音楽としては成立し得るところも面白いことです。
 演奏時間にしておよそ4分程度の曲ですが、僕が日頃聴き慣れている古典派以降の音楽とは全く異質の、明らかに別の美学から生まれたと思われる音楽であることに驚かされました。音の動きについての創意に溢れた作品だとも思いますが、何よりも半音階の進行がもたらす瞬間的な不安定感というか行き先の定まらなさ感が非常に面白いと感じたのです。バッハのチェンバロ曲に<半音階的幻想曲とフーガ BWV.903>という名作がありますが、こちらは半音の動きがタイトルのとおり自由で幻想性を感じさせるのに対し、メールラの場合は自由さよりも半音階の均一的な動きが却って無限音階を思わせる、ちょっとエッシャーのだまし絵的な居心地の悪さのようなものを僕は覚えるのです。まあ、だからこそ面白いのかも知れませんが。
 ディスク。多分、どの演奏でも曲の面白さ自体は十分に伝わるとは思いますが、レオンハルト盤の他にいくつか挙げるとすれば、角張った感じで更に異様感が出てきてしまっているヘルベルト・タヘツィ盤(Teldec)や、メールラのオルガン作品全集のフランチェスコ・チェーラ盤(Tactus)、オルガンでなくてチェンバロで弾いたリナルド・アレッサンドリーニ盤(Opus111)とか。
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(左上からレオンハルト盤、タヘツィ盤、チェーラ盤、左下アレッサンドリーニ盤)
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by ohayashi71 | 2015-11-11 01:04 | 本編


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