第3回:ピアソラ/バンドネオン協奏曲

 今回はアストル・ピアソラの話をします。
 ピアソラの名前を僕が初めて知ったのは、1980年代の後半ぐらいだったと思います。それは現代音楽専門の弦楽四重奏団であるクロノス・クァルテットが初来日した際に、NHKのニュースで彼らが紹介されていて、その中でピアソラの曲を激しく演奏していた映像が流れたように記憶しています。ただ、その時はクロノスの印象の方が強かったはずです(因みにそのピアソラ作品はおそらく<フォー、フォー・タンゴ>という曲です。クロノスの<冬は厳しく>というアルバムに収録されています)。
 そして関西で学生生活、という名の音楽生活を送っていた僕はある日(多分1991年のこと)大阪の心斎橋のタワーレコードに行きました。何目当てで行ったかは覚えていませんが、クラシックのフロアでびっくりするくらいにカッコイイ音楽が流れていることに気付きました。どうやら発売されたばかりのクロノス・クァルテットのCDでした。それがピアソラの<ファイヴ・タンゴ・センセーションズ>という作品でした(Nonsuch/ワーナー)。それはピアソラ自身が加わってクロノスと演奏をした作品でもあったのですが、これが僕にとっての初のピアソラ体験でもありました。<ファイヴ・タンゴ・センセーションズ>は、今改めて聴くと、特に前半が若干ユルいかなとも思うのですが、動きのある楽章でのシャープさ(ピアソラもクロノスも)はやっぱりカッコイイなと。
 で、そこまでがピアソラ存命中の話。ピアソラは1992年に71歳で亡くなっています。
 そして、その次の大きなピアソラ体験は数年後に突然訪れました。その頃、僕は水戸に居たのですが、休みの度に東京に出かけて行ってCD漁りをしていました。ある休日、例のごとく東京に出かけ、最後に新宿のタワーレコード(今とは場所が違って、当時はルミネの上の方にこじんまりとやっていましたかね)に立ち寄りました。棚を眺めていてふと目に飛び込んできた文字をよく読むと、ピアソラのバンドネオン協奏曲とあります。直感的に「これはイケる!」と思った僕はレジに直行です。
 移動用にポータブルのCDプレイヤーを持ち歩いてた僕は、上野から水戸に向かう電車に乗り込んで席に座ると直ぐに封を切って買ったばかりのピアソラのCDを聴き始めました。
 出だしのノリを聴いただけで、僕は大きくガッツポーズをしました。少なくとも心の中では。
 ピアソラのバンドネオン協奏曲は、クラシック的な意味での協奏曲そのもので、独奏バンドネオンのバックには弦楽合奏、ピアノ、ハープと打楽器が付いており、急-緩-急の3つの楽章から成っています。バンドネオンはリズミカルに舞ったり、孤独や哀愁という表現が相応しいため息のようなフレーズを弾いたりするのですが、それらはタンゴやミロンガのノリそのものです。これはピアソラでないと作り出すことが出来ない独特な緊張感のある音楽でもあると思います。
 そういう意味で、ピアソラの自作自演のディスクというのは非常に重要だと思います。で、今回は上述したバンドネオン協奏曲の自作自演のCDをオススメしておきます(Nonsuch/ワーナー)。f0306605_441778.jpgバックには<ミッション・インポッシブル(スパイ大作戦と言った方がピンときますが)>のテーマ音楽を書いたラロ・シフリンが指揮する、セント・ルークス室内管弦楽団が付いています。因みに、ピアソラとシフリンは共にアルゼンチン出身であり、彼らはピアソラのパリ時代には既に共演していたそうなので、このディスクでの共演は別に唐突なものではないでしょう。
 ピアソラの音楽が日本で広く一般的になったのは、ヨーヨー・マがCMで<リベルタンゴ>を弾いていたあたり(CDも大ヒットっしましたが)なのでしょうが、その前にはギドン・クレーメルの一連のピアソラ・シリーズの第1作である<ピアソラへのオマージュ>も出ています(1996年/Nonsuch/ワーナー)。そうした流れを受けてか、当時、特にクラシック系の演奏家がこぞってピアソラ作品を取り上げていたはずです。ただ、クレーメルを除けば、クラシック系の演奏家でピアソラの自作自演に匹敵するレヴェルでピアソラの音楽の凄みを伝えてくれた演奏はほとんど無いようにも思います。まあ、これはあくまでも僕の主観ですが。
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# by ohayashi71 | 2013-12-01 04:09 | 本編

第2回:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第21番ハ長調Op.53

 今日はベートーヴェンのピアノ・ソナタです。
 いわゆる「ワルトシュタイン」と呼ばれるヤツですね。
 32番まで番号付けされているベートーヴェンのピアノ・ソナタでは、3大ソナタと称されることの多い「悲愴」「月光」「熱情」が今でも人気曲なのかもしれません。少なくとも僕がクラシックをかじり始めた頃はそうでした。3曲でちょうど1枚のレコードに収まるぐらいの演奏時間というのも良かったのでしょうし、それぞれに良い意味での「分かりやすさ」があるようにも思います。
 僕も多分その辺りから入ったのだろうとは思うのですが、その3曲よりもはるかに印象深い初体験になったのは「ワルトシュタイン」でした。高校生の時に、別府の中央公民館で行われた県の高校音楽コンクールだかに出かけたのですが、そこに参加していたどこかの高校の女子生徒が弾いていたのが「ワルトシュタイン」の第1楽章でした。本当は全曲で3楽章ある作品なのですが、多分制限時間の都合で第1楽章だけだったのでしょうが、それだけでまずは当時の僕には十分なインパクトでした。
 ひとことで言えば、ピアノ1台でもスケールの大きな音楽世界を生み出せることへの驚き、という感じでしょうか。それはソナタ形式というスタイルが元々持っているドラマの可能性を十二分に拡大した構成力と、ピアノという楽器の持つ運動性や響きに対する感覚とを見事にマッチさせたベートーヴェンの凄さに対しての驚きでもあったろうと思います。
 で、とにかく僕は弾けないのは分かっていても、自分でも「ワルトシュタイン」に触れてみたくなりました。それで全音のピアノ・ピースにあった楽譜を買ってきて第1楽章の冒頭分数小節をどうにかさらって、それなりに楽しんだものです。もちろん所詮自己満足でしたけれど。f0306605_254262.jpg
 さて、CDが欲しくなりました。ガイド本とかを見るとソ連(まだそんな国が存在した時代の話です)のピアニスト、エミール・ギレリスの演奏(DG/写真)が素晴らしいとのこと。当時出ていたそのCDには、やはりベートーヴェンのソナタで第23番ヘ短調Op.57と第26番変ホ長調Op.81aの2曲も同時に収録されていました。まあ、いわゆる「熱情」と「告別」ですね。当時は小遣いの制約上(笑)、なるべく定評のある演奏で、たくさんの名曲を聴きたい、というささやかな願望が強い時期でもありましたから、僕にはうってつけの1枚でした。
 「ワルトシュタイン」の話に絞っておくと、残る2つの楽章、つまり、続く楽章への導入部としての役割も持つ、瞑想的な第2楽章と、第1楽章とは趣きこそ異なるけれど、やはり伸びやかでダイナミックな第3楽章の両方ともがまた素晴らしい音楽であることを知って、ますます大好きな1曲になりました。
 ギレリスは、響きがクリアで美しいだけでなく、聴けば聴くほど、テンポ設定や音の強弱の変化の付け方などが、僕にとっての「ワルトシュタイン」という作品の理想像の典型とも言いたくなる演奏であることがはっきりしていきました。簡単には使いたくは無いのですが「完璧」と表現せざるを得ないぐらいの、長年の愛聴盤でもあります。もちろん、その後、ギレリス以外の演奏もいろいろ聴きましたが、なかなか僕の中でそれに取って代わるだけのイメージを残すような演奏には出会えていないのが現状です。
 唯一、挙げるとすれば、それはまるでギレリスとは趣きが異なる印象を与えるはずですが、やはりソ連出身のピアニスト、タチアナ・ニコラーエワの最後の録音(NOVALIS)となった1枚でしょうか。正直、危なっかしささえ覚える部分のある演奏ではありますが、どこまでも穏やかに、作品の持つドラマも生々しいものではなく、噛みしめるように語られた味わい深い演奏だと僕は感じています。特に第3楽章の途中、単にロンド主題への再帰へと向かう経過的な部分、だから特に全体構成的には重要ではない部分ではありますが、そこで彼女が見せる詩的な表情はつい「奇跡の一瞬」とでも呼びたくなるぐらいに愛おしかったりもします。ただ、このニコラーエワのディスクは、今は廃盤になっているので残念ながら入手は難しいだろうと思います。
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# by ohayashi71 | 2013-11-15 03:00 | 本編

第1回:ラヴェル/ボレロ

 ということで、第1回はラヴェルの<ボレロ>で始めます。
 <ボレロ>は僕がクラシック音楽にのめり込むきっかけになった曲でもあります。そのきっかけを書くと結構な量になるので今日は省略。とりあえず中1の冬に初めて行ったオーケストラの演奏会で聴いた<ボレロ>に熱狂した、というぐらいに留めておきます。
 僕は<ボレロ>からクラシック音楽に入れたのはラッキーだったと思っています。とりあえず、何故<ボレロ>にハマったか。今考えると理由はいくつか挙げられます。ひとつは演奏時間が大体15分前後でそんなに長くないこと。ふたつ目は楽器の音色やその組み合わせが多彩であること。三つ目は音楽が何処に向かって進んでいくかが非常に分かりやすいこと。それに旋律が覚えやすいこと。まずはそんなところでしょうか。
 「長い」「重い」「分かりにくい」の3拍子が揃ってしまうと、実はそれがどんなに素晴らしい音楽であっても、入門者には敷居が高いものだと僕は思っています。その意味で<ボレロ>は本当にお手頃な名曲なのです。しかも、どれだけの繰り返し聴きをしても飽きが来ないはずで、長く付き合っていける存在であることも素晴らしいと思います。
 まあ、そんなこともあって僕はラヴェルの<ボレロ>を機会があれば最初に紹介することが多いのですが、かつて某新聞でやらせてもらった連載の実質的な第1回目も<ボレロ>でしたし、別府の方々とのお付き合いのきっかけを作っていただいた故・滝口京子さんのサロンでの最初の講座でも<ボレロ>を取り上げました。
 さて、そんなラヴェルの<ボレロ>ですが、さすがに有名曲だけあって録音もたくさんあります。その中で何をおススメするか。初回から言うのも何ですが、これが難しい。
 大きいのはテンポ。早めだと演奏時間は13分ぐらいだし、遅めで17~18分ぐらいになります。早めのテンポだと颯爽とした感じの演奏に聴こえます。一方で遅めの場合だと品位を冷静に保ちながらクライマックスに向かって静々と進んでいくさまのカッコよさを感じます。で、どちらもアリなんですよねえ。
 だから身も蓋もなく言ってしまうと、こちらの気分次第です。
 早めのテンポで僕が好きなのは、古いけれどセルゲイ・クーセヴィツキー/ボストン交響楽団が1930年に録音したもの。因みにクーセヴィツキーはラヴェルにムソルグスキーの<展覧会の絵>のオーケストラ版を作るよう依頼した人物です。それからロリン・マゼール/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(1971年録音)。これは大いにクセのある演奏で、最後の部分に入る直前に一回タメを作ってなだれ込む、というケレン味たっぷりな演奏。
 遅い方で言えば、僕が最初に入手した<ボレロ>のレコードであるアンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団(1979年録音)。今聴いても立派な演奏だと思います。
 で、それらよりもとりあえずよく聴く回数が多いのは、僕の場合、結局のところシャルル・ミュンシュの演奏でしょうか。彼の演奏だと次第にテンポが早まっていく傾向があって、それは計算というよりは本当に自然な気持ちの昂ぶりがそうさせたのだろうと思います。そういう演奏が呼び起こす熱狂に聴きては見事に巻き込まれます。彼は<ボレロ>を4回録音しているそうで、どれも名演として知られていますが、僕の好みだと1962年にボストン交響楽団と録音したもの(RCA/現Sony)(下写真)でしょうか。因みに演奏時間は15分ぐらい。
 他にもアンドレ・クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団(1961年録音)のような古典的名盤や、最後に偶発的に起こった楽団員の叫び声がそのまま収録されているクラウディオ・アバド/ロンドン交響楽団(1985年録音)とかもちょいちょい聴いていますね。
 あと番外でラヴェルの自作自演とか、作品としての初録音にあたるピエロ・コッポラ盤とか(共に1930年録音)も僕は聴きますが、まあマニア向けです。両方ともオーケストラがあんまりお上手とは言えません。味わいと言えばそうとも言えなくもないのですが。f0306605_1501799.jpg
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# by ohayashi71 | 2013-11-04 02:01 | 本編

はじめに。

 どうも。若林です。
 冨士屋さんとのご縁でこちらで音楽のお話しをさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。毎月1回は更新を、というご依頼でしたが、調子に乗って書き進めていく可能性もありますので、ほどほどのタイミングで覗いていただけると幸いです。
 「名曲」や「名演」の話はしますが、それはあくまで「若林という人が思うところの」という前提で、大らかに見ていただければなあ、と思います。共感して頂ければ嬉しいことですが、そうでなかったとしても皆さんなりの「名曲」や「名演」探しの旅の道しるべとしていただければ十分です。
 ということで始めていきたいと思いますので、どうぞお付き合いのほどを。
 
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# by ohayashi71 | 2013-11-01 01:53


いつもコンサートの解説をお願いしている若林さんに、毎月オススメのCDを伺います!


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