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第15回:シューマン/ソナタ イ短調 Op.105

 学生時代のこと、僕はオーボエを吹いていました。まあ、大学でオーケストラのサークルに入ってから始めて、ほぼその4年間しかやっていなかったので大して上達はしませんでしたけれど。
 サークルの同じ回生で、楽器経験のある連中の話を聞くと、自分の楽器の関わっている曲をみんなよく知っている。協奏曲とかソナタとか小品とか。そういう曲はレッスンとかでも教わっていたんでしょうし、もちろん自分の興味もあるからなんでしょう。でも、僕は実際にオーボエを始めるまでオーボエのための、もう少し言えばオーボエがメインになる曲をそんなに知らなかったのです。モーツァルトのオーボエ協奏曲ハ長調K.314やオーボエ四重奏曲ヘ長調K.370の存在はさすがに知っていましたけれど、かといってゆくゆくは一節でもちゃんとさらって(=練習して)吹いてみたいな、とはあんまり思っていなかったのですね。そんな調子だから当時は有名なオーボエ吹きにしても、ハインツ・ホリガーとあと一人二人ぐらいしか名前を知らなかったはずです。
 そういう状態は、そもそもオーボエがメインで有名な作品がそう多くはないしなあ、と思っていたことも影響していたのかもしれません。当然丁寧に見ていけばそういう曲はちゃんとあるのですが、あんまりそこを意識的に追いかけようとしなかったのです。オーボエは好きでしたが、聴く側としてはオーボエだけにこだわらず、どんなジャンルでもOKという感じでレパートリーを広げていた時期でもあったので。
 それで、大学の4回生の時だったのか、社会人1年目の年だったのか、そこははっきりしていないのですが、とにかくその頃、そんな僕でもつい気になって購入したオーボエがメインのCDがあります。ローベルト・シューマン(1810~56)のいくつかの作品をヨーゼフ・キシュというハンガリー人のオーボエ奏者と、同じくハンガリー人のピアノ奏者、イェネ・ヤンドーが演奏したCD(Naxos)
です。そこに収録されていたのは<民謡風の5つの小品Op.102><幻想小曲集Op.73><3つのロマンスOp.94><アダージョとアレグロ 変イ長調Op.70>、それに<ソナタ イ短調Op.105>と記された曲でした。実はその頃でも、ホリガーがアルフレード・ブレンデルと組んでシューマンの曲だけを取り上げたアルバムが出ていたのですが、最後の<ソナタ>だけがよく分からない。そもそもシューマンが書いたオーボエとピアノのためのオリジナルな作品は<3つのロマンスOp.94>ぐらいしか無かったと思います。上に書いた他の曲は元はクラリネットであったりホルンであったりチェロのために作られたものです。
 とは言え音色が変わることによって、もともとシューマンが意図したであろう作品のイメージとは違ってくるのかもしれませんが、その一方で旋律の聴こえ方も良い意味で変わってきます。オーボエという楽器は例えばクラリネットやフルートに比べると運動性に劣るとされており(それはあんまり早いフレーズを演奏することが難しいという意味なのですが)、また演奏できる音域も決して広くはありません。しかしオーボエの持つくっきりとしていながら哀愁を帯びた独特の響きが、シューマンの音楽に含まれている、ある種つつましい雰囲気にうまく合っているのではないか、ということなのです。
 キシュとヤンドーのCDを最初から聴いていくと、僕は実際そう思ったのですが、このCDの最大の魅力は最後の<ソナタ>にあるように思えてきました。ここで取り上げられている<ソナタ>の原曲は<ヴァイオリン・ソナタ第1番イ短調Op.105>です。ヴァイオリンのためのソナタとしては超メジャー曲、という訳ではありませんが、シューマンらしい佳曲で、ギドン・クレーメルとマルタ・アルゲリッチのコンビをはじめ、いくつかの録音が出ています。オーボエだとヴァイオリン・パートをそのまま演奏するのは無理なので、キシュは細かい音を多少省いたり、オクターヴの調整はしていますが、ほとんどの部分では原曲のとおり演奏しています。正直なところ、僕はヴァイオリンでの演奏よりもオーボエの方がしっくりくる気がしています。シューマンの<オーボエ・ソナタ>ですよ、これは。暗く哀調のある旋律的冒頭から強い葛藤へと続いていく第1楽章、その緊張を一旦収束させる第2楽章、動きと情熱のこもる第3楽章のどれもがオーボエには、いえまあ一応オーボエにも、と書いておきますが、とにかくピッタリなのです。
 その意味で、もっともっとこのオーボエ・ヴァージョンの演奏が広まっていも良いのになあ、と僕は思うのですけれど。第15回:シューマン/ソナタ イ短調 Op.105_f0306605_271575.jpg
by ohayashi71 | 2014-04-16 02:11 | 本編


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