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第22回:ヴィヴァルディ/協奏曲集Op.8<和声と創意への試み>より 第1曲~第4曲「四季」

 「ど」が付くぐらいのメジャーな作品を。
 アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)の「四季」と言えば、まあクラシック好きでなくても何処かで耳にしたことはあるはずの作品ですね。僕は中学の音楽鑑賞で聴いたのが最初だったように思います。多分、クラシックにハマるよりも前だったと記憶していますが、正直そんなに楽しめなかったようです。そりゃあ子ども心に「きれいだな」ぐらいは思ったかも知れませんが、少なくともそれきっかけでクラシックにハマらなかったのは確かです(僕の場合はラヴェルの<ボレロ>きっかけでしたから)。
 クラシックを毎日のように聴くようになっても、ヴィヴァルディにしてもバッハにしても、とにかくバロック音楽にはまだピンときませんでした。それが少し変わったのは高校に上がってからのことで、何となく「四季」のCDを買ってみようかという気になりました。それで買ってみたのが、当時のガイド本で評論家先生方の賛否が割れていたニコラウス・アーノンクール指揮のウィーン・コンツェントゥスムジクス盤(ヴァイオリン独奏:アリス・アーノンクール)(Teldec/ワーナー)でした。
 これはとても面白かった。とにかくそれまで僕が聴いていた「四季」のイメージとまるで違う演奏だったからです。音のアクセントの独特な付け方、テンポ設定や揺らし方、独奏ヴァイオリンをはじめとした各楽器の鳴らし方の細やかな工夫、そしてそれらを総合した時の印象として顕れてくる「ドラマとしての音楽」の強烈さ。
 確かに「四季」の楽譜には各季節の様子を描いた作者不詳のソネット(十四行詩)が添えられており、それを音楽化したものがこの4つの協奏曲なのでしょう。そう考えた時に、そこで描かれている風景の中で聞こえてくるはずの実際の音を楽器で真似たり、そのイメージに近付けようとする弾き方をしようとするのは当然アリの考え方です。少なくとも18世紀のヴィヴァルディと19世紀のベートーヴェンやメンデルスゾーンの音楽が別物であることは間違いありません。今でこそ、クラシック音楽の演奏の中で「古楽」というスタイルは、歴史考証的な位置付け以上の存在感を持っていますが、僕がクラシックを聴き始めた1980年代半ばでもまだまだ決して十分に認知されていた訳ではなかったと思います。その意味で、「四季」という作品のレコード録音においてアーノンクール盤の果たした役割は大きかった、と言われているようです。
 さて、アーノンクール盤の登場から30年以上経った訳ですが、それからどうなったか。「古楽」スタイルによる演奏の幅はどんどん拡がって、十人十色というか百家争鳴というか、とにかくいろいろなアプローチによる演奏が出てきました。そんな中、今でも僕はアーノンクール盤を愛聴していますが、もうひとつ挙げるとすればファビオ・ビオンディの独奏と指揮によるエウローパ・ガランテ盤(Opus111)でしょうか。「四季」で描かれているドラマを更に追究し、鮮やかで生々しささえあるものとして表現しているようにも思えます。バロック音楽という言葉が優雅さを示すだけの代名詞である時代は終わったのです。
 他にも楽しい演奏はいろいろありますが、変わり種もいくつか。
 ピリオド楽器による「古楽」が主流になってしまうとこれまでのようなモダン楽器による演奏の存在意義は無くなるか、というとそういう訳でもありません。その視点で言えばギドン・クレーメルとクレメラータ・バルティカのCD(Nonesuch/ワーナー)には、クレーメルらしい試みがあります。それはヴィヴァルディの「四季」のそれぞれの間にアストル・ピアソラの<ブエノスアイレスの四季>を挟み込むというもので、だからアルバム・タイトルは<EIGHT SEASONS>です。18世紀の四季と20世紀の四季との対比の妙。またピアソラの方のアレンジの捻りが効いていて、ピアソラなのにヴィヴァルディのフレーズが突然入り込んでみたりもします。これはそれぞれをまとめて前後に置いてしまったら面白さは間違いなく半減するはずで、さすが「鬼才」というCDです。
 続きまして。
 ヴィヴァルディの作品は彼の生前からイタリア以外の国々でも愛好されていました。しかし、著作権意識の薄い時代のことですから、良からぬ?企てをする音楽家も居る訳で。フランスに二コラ・シェドヴィル(1705~82)という音楽家がいました。彼はミュゼッとというフランスのバグパイプ的な楽器の奏者でもあり、それを使った自作も発表はしていたのですが、1739年にヴィヴァルディの「四季」を元にして<春、または楽しい季節>という曲を出版しました。これがすごい。「四季」の楽器編成を単にミュゼット、ヴァイオリン、フルート用にしただけでなく、他のヴィヴァルディの曲の楽章と入れ換えたり、順番を換えたり、更に独自のフレーズを入れてみたりと、やりたい放題に仕上げています。僕は中古CD店でパラディアン・アンサンブルのCD(Linn Records)をあんまり深く考えずに買ってみて、後で聴いてぶったまげましたね。まあ、おおらかな時代だったということで。そんな1枚。
 最後にもう一つ。
 シェドヴィルはともかくとしての話ですが、「四季」にはドレスデン版と呼ばれるものが存在していて、それは原曲が弦楽合奏と通奏低音だったのが、ここではリコーダー、オーボエ、ファゴット、ホルンといった管楽器が含まれているのです。ヴィヴァルディ自身によるものヴァージョンではありませんが、生前のヴィヴァルディはドレスデン宮廷との結び付きもあり、管楽器入りの演奏記録もあったことで、そこからのある種の復元版ということのようです。弦楽器と通奏低音だけでも十分に色彩的な音楽なのに、それに管楽器が加わるとどうなるか。そういう楽しみ方も出来るので、いい時代になりました(笑)。CDはフェデリコ・グリエルモの独奏と指揮でラルテ・デラルコの合奏(CPO)
(上段、左からアーノンクール盤、ビオンディ盤、クレーメル盤。下段、左からパラディアンens盤、グリエルモ盤)
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by ohayashi71 | 2014-07-08 01:48 | 本編


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